最終更新: 2026-04-24
日本の夏を彩る和菓子は、見た目の涼やかさと季節の味わいを兼ね備えた、世界でも類を見ない食文化です。水羊羹や水まんじゅうといった「冷たくて透き通る」和菓子から、水無月や土用餅のように行事と深く結びついた伝統菓子まで、夏の和菓子の種類は実に多彩です。
「夏に食べる和菓子にはどんな種類があるの?」「それぞれの和菓子にはどんな由来があるの?」と気になっている方も多いのではないでしょうか。この記事では、夏の和菓子を「涼菓系」「行事菓子系」「餅菓子・甘味系」「上生菓子系」の4つに分類し、それぞれの特徴・由来・旬の時期を徹底解説します。まず代表的な夏和菓子の全体像を押さえたうえで、月別の旬カレンダー、さらに和菓子職人の視点から見た夏和菓子の製造ポイントまでお伝えします。
夏の和菓子とは?四季の中での位置づけ
和菓子は日本の四季と密接に結びついており、季節ごとに使う素材や意匠が大きく変わります。夏の和菓子は、大きく次の特徴を持っています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 季節 | 主に5月下旬〜8月(旧暦では水無月〜葉月) |
| 特徴 | 涼感を重視した見た目・食感・素材選び |
| 主な素材 | 葛粉、寒天、わらび粉、道明寺粉、上新粉 |
| 代表的な技法 | 流し物(寒天・葛を型に流す)、包み物(葛や薄皮で餡を包む) |
| 行事との結びつき | 夏越しの祓い(6/30)、土用の丑の日、お盆 |
春の和菓子が桜や草餅など「花」をモチーフにするのに対し、夏の和菓子は「水」「氷」「風」をテーマに涼しさを表現する点が大きな違いです。和菓子と洋菓子の違いについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
夏の和菓子の種類【涼菓系】透き通る美しさが魅力
夏の和菓子の中でも、見た目の涼しさでまず思い浮かぶのが「涼菓(りょうか)」と呼ばれるジャンルです。葛粉や寒天を使い、透明感や水のような質感を表現します。
水羊羹(みずようかん)
水羊羹は、通常の練り羊羹よりも水分量を多くし、つるりとした喉ごしに仕上げた夏の定番和菓子です。寒天と餡を練り合わせて冷やし固めるシンプルな製法ですが、水分と餡のバランスが職人の腕の見せどころです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な材料 | こしあん、寒天、砂糖、水 |
| 旬の時期 | 5月〜9月 |
| 発祥 | 福井県では冬に食べる文化もある |
| 保存 | 要冷蔵。開封後は当日中に |
福井県では「冬の水羊羹」として、こたつに入りながら水羊羹を食べる独自の文化が根づいており、全国的な「夏の和菓子」というイメージとは異なる楽しみ方もあります。自宅で作ってみたい方は、水羊羹のレシピ(寒天で作る方法)を参考にしてください。
錦玉羹(きんぎょくかん)
錦玉羹は、寒天液に砂糖を加えて固めた透明度の高い和菓子で、「琥珀羹(こはくかん)」とも呼ばれます。透明な寒天の中に季節のモチーフ(金魚、紫陽花、朝顔など)を閉じ込めることで、まるでガラス細工のような涼しげな見た目に仕上がります。
葛まんじゅう・葛切り
葛粉を水で溶いて加熱し、餡を包んだ「葛まんじゅう」や、葛粉を薄く伸ばして切り分けた「葛切り」は、独特のもっちりとした弾力と半透明の美しさが特徴です。葛粉は本葛(吉野葛が有名)を使用すると、透明感と粘りが格段に上がります。
水まんじゅう
水まんじゅうは、岐阜県大垣市が発祥の地として知られる夏の和菓子です。明治30年頃、和菓子屋の上田文七が豊富な地下水を生かして考案したとされています(農林水産省「うちの郷土料理」より)。大垣は「水の都」と呼ばれるほど良質な地下水に恵まれており、各家庭にあった「井戸舟」で冷やして食べる文化が生まれました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な材料 | 葛粉、わらび粉、砂糖、餡 |
| 旬の時期 | 6月〜9月 |
| 発祥 | 岐阜県大垣市(明治時代) |
| 特徴 | 透き通った見た目、つるんとした食感 |
夏の和菓子の種類【行事菓子系】季節の節目に食べる伝統
夏の和菓子には、特定の行事や暦と結びついたものが数多くあります。ここでは代表的な3つの行事菓子を紹介します。
水無月(みなづき)
水無月は、白いういろう生地の上に小豆をのせて三角形に切り分けた和菓子で、京都を中心に6月30日の「夏越しの祓い(なごしのはらえ)」に食べる風習があります。三角形の形は、平安時代の宮中行事「氷室の節会(ひむろのせちえ)」で用いられた氷を模したものです。当時、氷は大変な貴重品で、庶民は本物の氷の代わりに氷の形をした菓子を食べて暑気払いをしたことが起源とされています(農林水産省「うちの郷土料理」より、2026年4月確認)。
小豆の赤色には邪気を祓う意味が込められており、半年間の穢れを落として残り半年の無病息災を祈る行事食として、現在でも京都の和菓子店では6月になると一斉に水無月が店頭に並びます。
土用餅(どようもち)
土用餅は、土用の丑の日に食べる「あんころ餅」のことです。お餅を小豆の餡で包んだシンプルな和菓子ですが、その歴史は古く、宮中では暑気払いのためにガガイモの葉を煮出した汁で練った餅を食べていたことが起源です。江戸時代中期に、お餅を小豆餡で包む現在の形になりました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 食べる時期 | 土用の丑の日(7月下旬〜8月上旬) |
| 別名 | あんころ餅 |
| 意味 | 暑気払い・無病息災 |
| 小豆の赤色 | 魔除け・厄除けの意味 |
土用といえば鰻が有名ですが、和菓子の世界では土用餅も同様に大切にされている行事菓子です。
氷室饅頭(ひむろまんじゅう)
氷室饅頭は、石川県金沢市で7月1日の「氷室の日」に食べられる伝統的な饅頭です。かつて加賀藩が冬の間に氷室に貯蔵した雪氷を江戸の将軍家に献上する行事があり、その無事を祈って食べたのが始まりとされています。麦粉で作る「麦饅頭」と酒を混ぜた「酒饅頭」の2種類があり、白・赤・緑の3色で作られるのが一般的です。
夏の和菓子の種類【餅菓子・甘味系】暑い日に食べたい涼の味
わらび餅
わらび餅は、わらび粉を水で溶いて加熱し、練り上げたもので、ぷるぷるとした弾力のある食感が特徴です。きな粉や黒蜜をかけて食べるのが定番で、冷やすとさらに美味しくなります。本わらび粉を100%使用した「本わらび餅」は、色がやや黒みがかり、独特のもっちりとした粘りがあります。わらび餅の本格レシピでは、自宅で作る方法を紹介しています。
くず餅
くず餅には、関東式と関西式の2種類があります。関東のくず餅は小麦粉のでんぷんを発酵させて作る「久寿餅」で、独特の歯ごたえと風味が特徴です。一方、関西のくず餅は本葛粉を使って作るもので、透明感のある上品な仕上がりになります。
| 比較項目 | 関東式くず餅 | 関西式くず餅 |
|---|---|---|
| 原材料 | 小麦粉のでんぷん(発酵) | 本葛粉 |
| 色 | 白〜灰色 | 半透明 |
| 食感 | もちっとした弾力 | つるんとした滑らかさ |
| 代表店 | 亀戸天神・川崎大師周辺 | 奈良・吉野地方 |
| 発酵の有無 | あり(約450日発酵) | なし |
あんみつ
あんみつは、寒天・赤えんどう豆・求肥・フルーツ・餡・蜜を盛り合わせた日本の夏のデザートです。明治時代に「みつ豆」から派生して生まれたとされ、昭和初期に東京・銀座の甘味処で餡をのせた「あんみつ」が考案されて全国に広まりました。
若鮎(わかあゆ)
若鮎は、カステラ生地で求肥を包み、鮎の形に焼き上げた初夏の和菓子です。焼きゴテで目や尾びれの模様をつける手法が特徴的で、岐阜県や京都府の銘菓として親しまれています。旬は5月〜7月頃で、鮎の解禁時期に合わせて和菓子店に並びます。
京都や岐阜のものは中身に求肥のみを使いますが、関(岐阜県関市)のものは求肥と小豆餡の両方を包むなど、地域によって中身が異なるのも面白い点です。
夏の和菓子の種類【上生菓子系】職人の技が光る季節の芸術
上生菓子は、練り切りやこなし、きんとんなどの技法で季節のモチーフを表現する和菓子の最高峰です。夏には以下のような意匠が多く見られます。
| 菓銘(かめい) | 意匠 | 技法 | 時期 |
|---|---|---|---|
| 紫陽花(あじさい) | 錦玉羹で雨粒を表現 | 錦玉・練り切り | 6月 |
| 清流(せいりゅう) | 川の流れと青楓 | 錦玉流し | 6月〜7月 |
| 金魚(きんぎょ) | 金魚鉢の中の金魚 | 錦玉・羊羹 | 7月〜8月 |
| 朝顔(あさがお) | 朝顔の花 | 練り切り | 7月〜8月 |
| 向日葵(ひまわり) | ひまわりの花 | 練り切り・きんとん | 7月〜8月 |
| 花火(はなび) | 夜空に咲く花火 | 錦玉・練り切り | 8月 |
| 天の川(あまのがわ) | 七夕の星空 | 錦玉流し | 7月 |
和菓子職人にとって、夏の上生菓子は「いかに涼しさを目で伝えるか」が腕の見せどころです。実際の現場では、錦玉羹の透明度を上げるために寒天の煮詰め加減を微調整し、色づけは天然色素(クチナシ青や紅花など)を少量ずつ加えて理想の色合いを出していきます。気温が高い夏場は生地がダレやすくなるため、工房の室温管理にも細心の注意が払われます。
夏の和菓子 月別カレンダー|5月〜9月の旬を一覧で確認
夏の和菓子は、月ごとに旬が異なります。以下のカレンダーで、いつどの和菓子が楽しめるかを確認してください。
| 月 | 旬の和菓子 | 主な行事 |
|---|---|---|
| 5月 | 柏餅、ちまき、若鮎(走り) | 端午の節句(5/5) |
| 6月 | 水無月、若鮎、紫陽花の上生菓子 | 夏越しの祓い(6/30) |
| 7月 | 水羊羹、水まんじゅう、氷室饅頭、錦玉羹 | 氷室の日(7/1)、七夕(7/7) |
| 8月 | 土用餅、わらび餅、くず餅、あんみつ | 土用の丑の日、お盆 |
| 9月 | 月見団子、おはぎ(走り) | 十五夜 |
この月別カレンダーを参考にすると、夏のお茶席や手土産選びにも役立ちます。気象庁の平年値(1991〜2020年平均)によると、東京の7月の平均気温は25.7度、8月は26.9度と真夏日が続きます。この暑さの中で冷たい和菓子を味わう文化は、日本の知恵そのものといえるでしょう。茶道での和菓子の選び方も合わせて確認しておくと、季節に合った和菓子選びができます。
和菓子職人が語る夏の製造の工夫|現場のリアル
ここでは、和菓子職人の視点から見た夏の和菓子作りのポイントを紹介します。これは競合記事ではほとんど触れられていない、和菓子道ならではの切り口です。
夏場の和菓子製造で最も気を使うのは「温度管理」です。室温が高いと、練り切りの生地がすぐに柔らかくなり、細工がしにくくなります。そのため、多くの和菓子店では早朝4時〜5時から作業を開始し、気温が上がる前に繊細な成形作業を終わらせるのが一般的です。
また、寒天を使う涼菓系の和菓子では、「離水」(寒天から水分がにじみ出る現象)が品質低下の大きな原因になります。離水を防ぐためには、寒天の煮溶かし温度と糖度のバランスが重要で、砂糖の量を増やすと離水しにくくなる一方、甘さが強くなりすぎるため、職人は毎回微調整を繰り返します。
水まんじゅうの製造では、葛粉とわらび粉の配合比率が食感を大きく左右します。葛粉だけでは水に浸けると溶けやすく、わらび粉を加えることでもっちりとした弾力が生まれます。この配合は各店の企業秘密ともいえる部分で、老舗ごとに独自のレシピが受け継がれています。
和菓子職人を目指している方は、夏場の製造経験が技術力を大きく伸ばすといわれています。暑さの中での繊細な作業は、職人としての基礎体力と集中力を鍛える最良の機会です。和菓子職人になるにはの記事で、キャリアパスの全体像を確認できます。
夏の和菓子に関するよくある質問
Q1: 夏の和菓子はいつ頃から店頭に並びますか?
和菓子店によって異なりますが、水羊羹や水まんじゅうは5月下旬〜6月初旬頃から販売が始まるのが一般的です。水無月は6月限定、若鮎は5月〜7月頃の季節商品です。9月に入ると秋の和菓子に切り替わるため、夏和菓子を楽しめるのは約3〜4か月間です。
Q2: 夏の和菓子の保存方法は?
水羊羹や水まんじゅうなど水分量の多い和菓子は、必ず冷蔵保存してください。常温で放置すると傷みやすく、特に気温30度を超える日は数時間で品質が低下します。消費期限は購入日から2〜3日以内が目安ですが、商品ごとの表示を必ず確認しましょう。
Q3: 自宅で簡単に作れる夏の和菓子はありますか?
わらび餅や水羊羹は、材料がシンプルで自宅でも比較的簡単に作ることができます。わらび餅は市販のわらび粉と砂糖、水があれば30分程度で完成します。水羊羹は寒天とこしあんがあれば冷やし固めるだけです。[あんこの種類と作り方](https://wagashi-do.jp/wagashi/wagashi-anko-shurui/)を事前に知っておくと、仕上がりに差がつきます。
Q4: 夏の和菓子を手土産にするなら何がおすすめですか?
夏の手土産には、見た目の涼しさと日持ちのバランスが大切です。水羊羹は個包装で日持ちするものが多く、手土産に適しています。若鮎も見た目が華やかで喜ばれます。生菓子(水まんじゅうや上生菓子)は当日中に食べる必要があるため、訪問先が近い場合に選ぶとよいでしょう。
Q5: 夏の和菓子に使われる「葛粉」と「寒天」の違いは何ですか?
葛粉は植物の葛の根から抽出したでんぷんで、加熱するともっちりとした弾力のある食感になります。寒天は海藻(テングサ)から作られ、固めるとプルンとした歯切れの良い食感が特徴です。水まんじゅうや葛切りには葛粉、水羊羹や錦玉羹には寒天が使われるのが一般的です。[和菓子用語集](https://wagashi-do.jp/wagashi-culture/wagashi-glossary/)でそれぞれの製法用語を詳しく解説しています。
Q6: 地域によって夏の和菓子に違いはありますか?
地域差は非常に大きいです。京都では6月の水無月が定番ですが、金沢では7月1日の氷室饅頭が夏の風物詩です。岐阜県大垣市は水まんじゅう発祥の地として知られ、沖縄ではムーチー(鬼餅)など独自の菓子文化があります。旅先でその土地ならではの夏和菓子を探してみるのも楽しみ方の一つです。
関連記事: 春の和菓子の代表的な種類一覧|月別の行事菓子も解説
関連記事: 花びら餅の意味と作り方|由来から本格レシピまで徹底解説
まとめ:夏の和菓子の種類を知って季節を味わおう
夏の和菓子の種類について、4つのカテゴリに分けて解説しました。ここで要点を振り返ります。
- 涼菓系(水羊羹・錦玉羹・葛まんじゅう・水まんじゅう)は、透明感と冷たさで「目」と「舌」の両方から涼を届ける
- 行事菓子系(水無月・土用餅・氷室饅頭)は、季節の節目に食べる意味を持ち、無病息災や厄除けの願いが込められている
- 餅菓子・甘味系(わらび餅・くず餅・あんみつ・若鮎)は、日常的に楽しめる夏の甘味として幅広い世代に人気がある
- 上生菓子系は、紫陽花や金魚など夏のモチーフを職人の技で表現した和菓子の芸術作品である
まずは気になった夏の和菓子を一つ、近くの和菓子店で購入して味わってみてください。旬の時期に食べる和菓子の美味しさは格別です。和菓子の世界をさらに深く知りたい方は、饅頭の種類一覧や上生菓子とはの記事もおすすめです。
参考情報
- 農林水産省「うちの郷土料理 水まんじゅう 岐阜県」(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/38_18_gifu.html)
- 農林水産省「うちの郷土料理 水無月 京都府」(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/minazuki_kyoto.html)
- 農林水産省「和菓子の歴史」(https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2002/spe2_01.html)
- 気象庁 過去の気象データ(平年値: 1991〜2020年平均)


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