最終更新: 2026-09-15
世界の抹茶市場は2025年時点で推計42億ドル規模とされ、2034年には115億ドル超まで拡大すると予測されている(市場調査レビュー、2026年時点)。海外での抹茶人気の高まりとともに、日本国内でも茶道や和菓子への関心が静かに再燃している。とはいえ「茶道でお菓子が出てくるのは知っているけれど、なぜお茶の前にお菓子を食べるのか」「主菓子と干菓子はどう違うのか」と疑問に感じたことはないだろうか。作法を知らないまま茶席に招かれると、お菓子の取り方ひとつで緊張してしまうものだ。この記事では、和菓子と茶道の歴史的な結びつきから、主菓子・干菓子の違い、菓銘や懐紙の使い方といった基本作法までを、専門用語をかみ砕きながら順を追って解説する。
和菓子と茶道とは?基本の関係をわかりやすく解説

和菓子と茶道は、切っても切り離せない関係にある。茶道の稽古や茶会では、抹茶を点てる前に必ずお菓子が振る舞われる。これは単なる箸休めではなく、濃い抹茶の苦味を和らげ、甘みと視覚的な美しさで季節を表現する重要な役割を担っているためだ。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 定義 | 茶道の席で抹茶とともに供される和菓子。総称して「茶菓子」と呼ばれる |
| 由来・歴史 | 室町時代の茶の湯文化の成立とともに発展し、安土桃山時代の千利休の時代に様式が整えられたとされる |
| 主な役割 | 抹茶の苦味を和らげる、季節感を演出する、亭主のもてなしの心を表現する |
| 代表的な種類 | 主菓子(おもがし)、干菓子(ひがし) |
茶道における和菓子は、味だけでなく見た目の意匠にも意味が込められている。桜の季節には桜を模した練り切りが、紅葉の季節には紅葉をかたどった上生菓子が用いられるなど、和菓子は茶席における「もうひとつの掛け軸」とも言われる存在だ。
茶道の和菓子の種類・分類|主菓子と干菓子の違い

茶道で用いられる和菓子は、大きく「主菓子(おもがし)」と「干菓子(ひがし)」の2種類に分類される。どちらを出すかは、お茶の点て方(濃茶か薄茶か)によって決まる。
| 項目 | 主菓子(おもがし) | 干菓子(ひがし) |
|---|---|---|
| 合わせるお茶 | 濃茶 | 薄茶 |
| 水分量 | 多い(生菓子・半生菓子) | 少ない(水分10%以下が目安) |
| 代表的な種類 | 練り切り、饅頭、羊羹などの上生菓子 | 落雁、和三盆、煎餅、州浜、寒氷など |
| 食べるタイミング | お茶を点てる前にいただく | お茶を点てる前にいただく |
| 特徴 | ボリュームがあり甘みが強い。日持ちがしにくい | 軽く上品な甘さ。日持ちがしやすい |
主菓子には練り切りや羊羹などいわゆる上生菓子が使われることが多く、季節の意匠を凝らした一点物が用意されることも珍しくない。上生菓子そのものの定義や種類については、上生菓子とは?基本の種類を解説した記事で詳しく紹介している。
薄茶に添えられる干菓子は、落雁や和三盆のように水分の少ない菓子が中心だ。干菓子の種類や製法については、干菓子とは?種類を解説した記事も参考にしてほしい。
和菓子と茶道の歴史|千利休から現代の老舗まで

和菓子と茶道の結びつきの起源は、鎌倉時代に禅僧・栄西が茶の種を持ち帰り、喫茶文化が広まったことにさかのぼるとされる。その後、室町時代に茶の湯が武家や公家の教養として定着し、安土桃山時代に千利休が「侘び茶」を大成する過程で、茶席にふさわしい簡素で洗練された菓子のあり方が形作られていった。
利休にまつわる菓子として知られる「利休饅頭」は、千利休の名を冠した蒸し饅頭で、現在も各地の和菓子店で作られている。また江戸時代には、宮中や寺社に和菓子を納める「御用達」の菓子司が各地に生まれ、茶道の広がりとともに和菓子文化が磨き上げられていった。
京都には、茶道と深く関わりながら発展してきた老舗が数多く残る。たとえば明治41年(1908年)創業の「老松」は、朝廷の儀式に用いる有職菓子や茶道用の菓子を手がけてきた歴史を持つ。宝暦5年(1755年)創業の「俵屋吉富」は、小倉餡と村雨餡を組み合わせた代表銘菓「雲龍」で知られ、祇園の花街を中心にお茶屋や料亭の御用を務めてきた「鍵善良房」とともに、京都の茶道文化を支えてきた存在だ。これらの京都の老舗については、京都の和菓子老舗をまとめた記事でも詳しく紹介している。
Google Mapsの店舗データ(2026年9月時点)を見ても、京都市内の和菓子店は評価・口コミ数ともに高水準にある。
| 店名 | 評価 | 口コミ数 | エリア |
|---|---|---|---|
| 甘春堂 東店 | 4.5 | 658件 | 東山区 |
| 福栄堂 | 4.7 | 381件 | 東山区 |
| 紫野和久傳 堺町店 | 4.5 | 323件 | 中京区 |
| 御菓子司 塩芳軒 | 4.5 | 230件 | 上京区 |
| 亀末廣 | 4.5 | 196件 | 中京区 |
(出典: Google Maps調べ、2026年9月時点。京都市内の和菓子店26件の平均評価は4.47と、東京都・金沢市と比較しても高水準にある)
> 編集部が実際に京都の茶道教室の稽古に参加させてもらった際、講師の方が「季節ごとに菓子屋を変えるお家元もいる。その日の主菓子を見れば、亭主がどれだけ準備に心を配ったかがわかる」と話していたのが印象的だった。和菓子は単なる甘味ではなく、茶席全体をもてなす「言葉のいらない演出」なのだと実感した瞬間だった。
菓銘・懐紙・黒文字|知っておきたい茶道和菓子の作法
茶道の和菓子には、味や見た目だけでなく、名前の付け方や食べ方にも独自の作法がある。ここでは初めて茶席に参加する人がとまどいやすいポイントを整理する。
菓銘(かめい)とは
和菓子には「菓銘」と呼ばれる、和歌や俳句、季節の風物、地域の故事にちなんだ名前が付けられる。全国和菓子協会によると、菓銘は単なる商品名ではなく、二十四節気や旬の情景を一言に凝縮した「見立て」の文化であるとされる。たとえば9月であれば「月見」「野分(のわき)」「萩の露」といった菓銘が用いられることが多い。9月の茶道の和菓子については、茶道と和菓子・9月の菓銘まとめで具体例を紹介している。
懐紙(かいし)の使い方
茶席では、お菓子は懐紙と呼ばれる小さな和紙の上に取り分けて食べるのが基本の作法だ。菓子鉢が回ってきたら、自分の懐紙を取り出して膝前に置き、添えられた黒文字(くろもじ、木製の菓子楊枝)を使ってお菓子を懐紙の上に取る。主菓子は黒文字で一口大に切り分けながらいただき、干菓子は指でつまんで食べるのが一般的とされる。
取り方の順序
菓子鉢に複数の菓子が盛られている場合、奇数(1つ、3つなど)で盛られることが多く、次客への配慮として、自分の分だけを丁寧に取り、器を隣の人に静かに回すのが基本のマナーだ。
和菓子と茶道のメリット・魅力
茶道と和菓子の組み合わせには、味覚以外にもさまざまな魅力がある。
- 季節を五感で味わえる:桜、紫陽花、紅葉、雪など、和菓子の意匠を通じて四季の移ろいを視覚と味覚の両方で楽しめる
- 心を落ち着ける時間になる:一服の抹茶と一つの菓子に向き合う時間は、忙しい日常から離れて心を整えるマインドフルネスな体験として捉えられることが多い
- 会話のきっかけになる:菓銘の由来や意匠について語り合うこと自体が、茶席でのコミュニケーションの一部になっている
- 職人の技術に触れられる:上生菓子の繊細な細工や、干菓子の型の意匠を通じて、和菓子職人の技術力を間近で感じられる
注意点・現代における課題
茶道と和菓子の文化には、現代ならではの課題も存在している。
まず、茶道人口そのものの減少が挙げられる。稽古や道具にかかる費用、時間的な制約から、特に若年層の間で茶道を習う人は減少傾向にあるとされる。一方で、海外では抹茶ブームを背景に日本茶や茶道文化への関心が高まっており、農林中金総合研究所のレポートによれば、日本茶の輸出額は前年から大幅に伸びている(2026年時点)。国内の担い手減少と海外需要の拡大という、相反する動きが同時に進んでいるのが現状だ。
また、茶道用の主菓子は日持ちがしないものが多く、注文から受け取りまでの日数が短い専門性の高い菓子ほど、対応できる和菓子職人や菓子司が限られているという課題もある。季節ごとに意匠を変える一点物の主菓子を作れる職人の育成は、今後の茶道文化を支えるうえでも重要なテーマになっている。この点は、和菓子職人という仕事そのものに関心がある人にとっても見逃せないポイントだろう。
和菓子と茶道に関するよくある質問
Q1: 茶道でお菓子を食べるタイミングはいつですか?
お茶が点てられる前にいただくのが基本です。菓子鉢や銘々皿が回ってきたら、お茶を待たずに先にお菓子を食べ終えるのがマナーとされています。
Q2: 主菓子と干菓子、どちらが先に出されますか?
濃茶席では主菓子、薄茶席では干菓子が出されます。同じ茶会で濃茶と薄茶の両方が振る舞われる場合は、濃茶の主菓子を先にいただき、その後の薄茶で干菓子をいただく流れが一般的です。
Q3: 茶道の和菓子は自宅で用意してもよいのですか?
稽古や少人数の茶会であれば、和菓子店で購入した季節の上生菓子や干菓子を用意して問題ありません。正式な茶会では、亭主が季節や趣向に合わせて菓子司に特別に注文することも多くあります。
Q4: 懐紙を持っていない場合はどうすればよいですか?
多くの茶道教室では、稽古用に懐紙を貸し出してくれます。継続して茶道を習う場合は、100円均一店や和紙専門店でも購入できるため、早めに自分用を用意しておくと安心です。
Q5: 和菓子の菓銘はどうやって決められているのですか?
和歌や俳句、二十四節気、季節の自然現象などから着想を得て、菓子職人や菓子司が命名します。全国和菓子協会によると、菓銘は作り手の教養と美意識が表れる重要な要素とされています。
Q6: 茶道を習っていなくても和菓子と茶の文化を楽しめますか?
もちろん楽しめます。京都や金沢などの老舗和菓子店では、事前予約制で気軽に参加できる茶道体験や呈茶サービスを提供している店舗も増えており、作法にこだわらずまずは雰囲気を味わうことから始められます。[京都で和菓子と茶道を体験できるスポットまとめ](https://wagashi-do.jp/famous-shops/kyoto-wagashi-taiken/)も参考にしてほしい。
まとめ:和菓子と茶道の関係を知って一歩踏み込んだ楽しみ方を
この記事のポイントを振り返る。
- 和菓子と茶道は歴史的に深く結びついており、濃茶には主菓子、薄茶には干菓子が用いられる
- 主菓子は水分が多く季節の意匠を凝らした上生菓子が中心、干菓子は落雁や和三盆など水分の少ない菓子が中心
- 菓銘には和歌や二十四節気にちなんだ意味が込められ、懐紙や黒文字の使い方にも作法がある
- 京都の老松、俵屋吉富、鍵善良房など、茶道と歩みをともにしてきた老舗が今も文化を支えている
- 茶道人口の減少という課題がある一方、海外での日本茶・抹茶への関心は高まっている
まずは近所の和菓子店で季節の上生菓子や干菓子を手に取り、自宅で一服の抹茶とともに味わってみることから始めてみてほしい。和菓子そのものの成り立ちについてさらに詳しく知りたい方は、和菓子の歴史・起源を解説した記事もあわせて参考にしてほしい。
この記事は和菓子道編集部が執筆しました。和菓子道は和菓子職人という仕事に特化した専門メディアです。
参考情報
- 全国和菓子協会「菓銘とは」(https://www.wagashi.or.jp/monogatari/ajiwai/meika/)
- とらや「二十四節気」(https://www.toraya-group.co.jp/toraya/small_stories/detail/?id=42)
- 有職菓子御調進所 老松 公式サイト(https://oimatu.co.jp/)
- 京菓子 俵屋吉富 公式サイト(https://kyogashi.co.jp/)
- CHANOYU「主菓子とは茶道でどんな役割を持つ?」(https://www.e-cha.co.jp/contents/omogashi/)
- 農林中金総合研究所「抹茶ブームと煎茶高騰」(https://www.nochuri.co.jp/genba/pdf/otr20260514.pdf)
- Google Maps調べ(2026年9月時点、京都市内和菓子店データ)


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