最終更新: 2026-07-26
「讃岐うどん」の陰に隠れて語られることは少ないが、香川県高松市は日本の和菓子史に欠かせない場所だ。江戸時代、塩・綿・砂糖の「讃岐三白」として全国に名を轟かせた国産最高級糖・和三盆の産地がここにある。和三盆は香川県東讃地域と徳島県の一部でしか作られない、日本に唯一と言ってよい高級砂糖だ。
その砂糖を使った和菓子が高松に集積したのは自然の成り行きだった。廃藩置県で仕事を失った元武士たちが和菓子職人へと転身し、明治の街に老舗の系譜を築いていった。150年以上の時を経て、銘菓「木守(きまもり)」や「瓦せんべい」は今も高松の顔として売り場に並ぶ。
この記事では、和菓子道編集部が職人の視点から高松・香川の名店を厳選して紹介する。e-Stat政府統計データで業界規模も可視化しながら、旅行者にも地元民にも役立つ情報をまとめた。体験スポットや手土産選びのポイントまでカバーしているので、ぜひ最後まで読んでほしい。
香川県の和菓子業界を数字で読む

まず、高松・香川の和菓子産業の実態をデータで確認しておこう。
経済産業省「経済センサス‐活動調査」(2020年・e-Stat 統計表ID: 0004003981)によると、香川県の和生菓子出荷額は1,452百万円(約14.5億円)・17事業所だ。四国4県を並べると以下のようになる。
| 都道府県 | 和生菓子出荷額 | 事業所数 | 出荷額/事業所 |
|---|---|---|---|
| 愛媛県 | 11,208百万円 | 31事業所 | 約362百万円 |
| 香川県 | 1,452百万円 | 17事業所 | 約85百万円 |
| 徳島県 | 1,752百万円 | 14事業所 | 約125百万円 |
| 高知県 | 1,183百万円 | 14事業所 | 約85百万円 |
(出典:経済産業省 経済センサス‐活動調査 2020年 品目別都道府県別出荷額 e-Stat ID: 0004003981)
愛媛と比べると出荷額は8分の1以下だが、香川の和菓子産業が誇るのは量より質だ。和三盆という日本唯一のプレミアム砂糖を産する土地は、規模の大小を超えた価値を持つ。全国430,994百万円・1,507事業所の和生菓子市場において、香川の事業所は17社と少なくとも、1軒1軒が長い歴史と独自の技術を有している点は特筆に値する。
詳しい全国・都道府県別の和菓子業界データは和菓子業界の統計まとめも参照いただきたい。
讃岐三白「和三盆」の歴史と唯一性

高松の和菓子を語る上で、和三盆の歴史は避けて通れない。
江戸時代・高松藩が育てた国産糖
江戸時代初期、日本は砂糖のほぼすべてを輸入に頼っており、価格は金に近い水準だった。この状況を変えようと、高松藩は藩士・向山周慶(むこうやましゅうけい)と薬学者・関良助(せきりょうすけ)を登用し、サトウキビからの砂糖製造に取り組んだ。試行錯誤の末に二人が成功させたのが国内初の白砂糖の生産だ。以後、讃岐東部(東讃地域)の温暖な気候と砂地の土壌がサトウキビ栽培に適していることが証明され、産地が根付いた。
「盆の上で3回研ぐ」製法がそのまま名前に
和三盆の名称は、精製工程に由来する。白下糖を盆(トレー)の上に盛り、押しては水分を抜き、また盛って……という「研ぎ」の工程を3回繰り返すことから「和三盆」と呼ばれるようになった。この手間のかかる手仕事によって、きめ細かく舌の上でさっと溶ける独特の食感が生まれる。
現代の産地
現在も和三盆の本格的な産地は香川県東讃地域と徳島県の一部のみに限られる。かつて「讃岐三白」(塩・綿・砂糖)の一つに数えられた高級品は、今も限られた職人の手によって作られ続けている。
この和三盆を素材として使う高松の和菓子は、日本の菓子文化の中でも特別な位置にある。茶道と和菓子の選び方でも触れているように、茶席では和三盆を使った上生菓子や干菓子が長らく最上とされてきた。
高松・香川の老舗名店ガイド

1. 三友堂(さんゆうどう)|銘菓「木守」の元高松藩士ルーツ
創業: 明治5年(1872年)
住所: 香川県高松市片原町1-22
TEL: 087-851-2258
営業: 9:00〜18:30(元旦のみ休)
三友堂の創業は廃藩置県後の明治5年。仕事を失った元高松藩士3人が「三人の友で店を出そう」と和菓子製造を始めたことが屋号の由来だ。武士から菓子職人への転身は当時めずらしくなかったが、三友堂のケースは150年以上にわたって続く老舗として結実した点で際立っている。
看板銘菓「木守(きまもり)」は、干柿の羊羹を麩焼き煎餅でサンドし、讃岐和三盆糖を溶かした蜜を表面に塗ったもの。名前の由来は千利休が愛した赤楽茶碗「木守」にちなむ。この茶碗はやがて高松藩松平家に献上された名碗で、関東大震災で破損した後も破片を胎土に入れて復元されるほど珍重された。茶人でもあった2代目店主がこの茶碗に深く感銘を受け、「晩秋の木に残る最後の一つの柿」を意味する「木守」という名で菓子を考案したのだという。
和三盆の蜜が表面にかかることで生まれる繊細な甘さと、麩焼き煎餅のほのかな焦げ香が重なり、単純な食べ菓子を超えた深みがある。高松みやげの定番として長年愛されてきた理由が一口でわかる。
2. 宗家くつわ堂(くつわどう)|高松城の瓦をかたどった「瓦せんべい」
創業: 明治10年(1877年)
代表銘菓: 瓦せんべい
高松城(玉藻城)のそで瓦を型どって作られた手焼き煎餅が「瓦せんべい」だ。明治10年の創業から150年近く、地元産の和三盆糖と讃岐産小麦粉を使った製法を守り続けている。一枚一枚手焼きで仕上げる瓦せんべいは、バリッとした硬さとほのかな甘みが特徴で、高松を代表するお土産菓子として知られてきた。
高松城を「食べる」という発想は、観光客に地元の歴史を菓子を通じて伝える試みでもある。同社は近年、事業承継によって新しいフェーズを迎えており、老舗の技と経営の継続性を両立させる取り組みが注目されている。
3. 夢菓房 たから|いちご大福で人気の昭和創業店
創業: 昭和11年(1936年)
所在地: 高松市春日町
昭和初期の創業から変わらず愛され続けているのが夢菓房たからだ。名物はいちご大福と季節のフルーツ大福で、県内外の和菓子ファンが足を運ぶ人気店として知られる。求肥の柔らかさと新鮮な苺の酸味が組み合わさる定番のいちご大福は、春の限定品として登場するとたちまち行列ができる。
昭和11年創業という経歴は現代の感覚では「老舗」に数えられる。三友堂・くつわ堂が和三盆使いの硬派な伝統菓子を代表するとすれば、夢菓房たからは生菓子・フルーツ大福の系譜で高松の和菓子をアップデートしてきた存在だ。
4. 御菓子処 湊屋(みなとや)|高松港近くの地元密着店
湊屋は高松港エリアの地元密着型の和菓子屋で、栗を使った季節の生菓子などを揃える。遠方からの観光客よりも、長年通い続ける地元客に支持されてきた「職人の日常菓子」が充実している点がほかの観光向け名店と一線を画す。
地元民に口コミで伝わる店こそ、その土地の和菓子文化の真の担い手と言える。
5. 豆花(まめはな)|和三盆の干菓子・練りきり体験教室
所在地: 高松市花園町(高松駅からバスで約10分)
豆花は和三盆や練りきり体験ができる工房で、日本でも数少ない菓子木型を手がける職人工房でもある。一軒家を改装した教室では、木型に和三盆糖を詰めて干菓子を作る体験(1回で12〜14個仕上がる)や、練りきりの成形体験が楽しめる。
常時10種類以上の木型が用意され、四季の花や動物、キャラクターなど多彩な柄から選べる。手を動かしながら「なぜこんなに繊細なのか」が体感できる豆花の体験は、和菓子職人の世界に踏み込む一歩として最適だ。
和菓子道が取材した職人によれば、「木型の彫りの精度が干菓子の美しさに直結する」という。同じ材料を使っても木型次第で表情が全く変わる—それを実感するだけでも体験の価値がある。
高松ならではの銘菓・定番お土産早見表
高松を代表する和菓子と手土産候補を一覧にまとめた。
| 銘菓 | 製造元 | 特徴 | 価格帯 | 賞味期限 |
|---|---|---|---|---|
| 木守(きまもり) | 三友堂 | 干柿羊羹×麩焼き×和三盆蜜 | 6個入り〜 | 常温約2週間 |
| 瓦せんべい | 宗家くつわ堂 | 高松城の瓦型・手焼き・和三盆 | 10枚入り〜 | 常温約60日 |
| いちご大福 | 夢菓房たから | 求肥×新鮮苺・限定季節品 | 1個200円前後 | 当日〜翌日 |
| 和三盆干菓子(体験制作) | 豆花 | 木型×和三盆・12〜14個セット | 体験料 3,000円前後 | 約1〜2ヶ月 |
お土産として渡す相手・シーンによって選び分けると印象が上がる。個包装で日持ちするなら三友堂の木守か宗家くつわ堂の瓦せんべい、鮮度感と話題性を重視するなら夢菓房たからの生大福がよい。
7月〜8月の夏にはわらび餅や水ようかんなど涼菓も高松の各店に並ぶ。季節の和菓子については夏の和菓子おすすめガイドも参考になる。
高松の和菓子文化を育てた「茶の湯と松平家」
高松の和菓子文化を理解するには、松平藩主と茶道の関係を外せない。
高松藩主・松平家は江戸時代を通じて武者小路千家との関わりを持ち、茶の湯を庇護した。茶道における「主菓子」は茶席の格を示す重要な要素で、和三盆を使った上生菓子や干菓子は最上の茶菓として重用された。藩主が好む文化は城下町全体に広がる。職人が技を磨き、和三盆の供給が菓子文化を支える—こうした循環が高松の和菓子産業を底上げした。
三友堂の「木守」が千利休ゆかりの茶碗をモチーフとしているのも偶然ではない。高松の菓子職人にとって茶道との繋がりは創業当時から自然なものだった。茶道と和菓子の選び方では、茶席でふさわしい菓子の基準や歴史についてさらに詳しく解説している。
高松和菓子の現代的魅力と職人キャリアの可能性
伝統だけが高松の和菓子の強みではない。現代の職人たちは和三盆という素材の付加価値を活かしながら、観光客向けの体験プログラムや通販など新しい市場を切り拓いている。
和菓子職人を目指す人にとって、高松は学びの場としても選択肢になり得る。和三盆という日本唯一の素材を日常的に扱える環境は、技術の向上という観点で非常に恵まれている。金沢と双璧をなす和菓子産地として、高松で修業した経歴は職人としての個性になるだろう。金沢の和菓子おすすめガイドと比較しながら、産地ごとの特色を理解しておくことも和菓子を学ぶ上で欠かせない視点だ。
高松和菓子 FAQ
Q1. 高松でしか買えない和菓子は何ですか?
「木守」(三友堂)と「瓦せんべい」(宗家くつわ堂)は高松を代表する銘菓で、店頭販売を基本としています。一部の通販サービスでも購入できますが、できれば高松を訪れて職人の現場に近い形で手に入れてほしい。和三盆を使った手作りの干菓子(豆花の体験品)は、自分でその場で作ったものとして持ち帰れる特別なお土産になります。
Q2. 和三盆はどこで購入できますか?
高松市内の百貨店・お土産店のほか、宗家くつわ堂の店舗やオンラインショップで購入できます。また、「ばいこう堂」など専門業者からの通販も可能です。和三盆糖そのものを購入し、自宅で干菓子を作ってみるのもひとつの楽しみ方です。
Q3. 高松の和菓子体験は予約が必要ですか?
豆花(花園町)の和三盆体験は予約制です。人数が少ない少人数制の教室のため、公式サイトや電話で事前予約をしてから訪問することをすすめます。当日飛び込みで参加できないケースが多いので注意してください。
Q4. 香川の和菓子は全国的に知名度が低いのはなぜですか?
e-Stat 2020年データでは、香川県の和生菓子出荷額は1,452百万円・17事業所と規模は大きくありません。「讃岐うどん」というブランドが観光・食の代名詞になっているため、和菓子への注目度が相対的に低い面もあります。しかし和三盆という素材の産地として高松は日本唯一に近い存在であり、菓子愛好家・職人の間での評価は高いです。
Q5. 高松城(玉藻城)と和菓子はどんな関係がありますか?
宗家くつわ堂の「瓦せんべい」は高松城(玉藻城)のそで瓦をモチーフにした菓子です。また高松城を本拠地とした松平藩主が茶道を庇護し、茶菓子の文化が城下町に根付いたことで、和三盆使いの上菓子が発達しました。城と菓子が結びついた産業史は、高松観光の際に知っておくとより深く楽しめます。
Q6. 高松の和菓子を通販で買えますか?
三友堂「木守」・宗家くつわ堂「瓦せんべい」はそれぞれ公式サイトや百貨店の通販ページで取り扱っています。ただし、生菓子(いちご大福など)は日持ちの関係で通販不可の場合がほとんどです。遠方の方が手土産に選ぶ場合、日持ちのする乾菓子・焼き菓子系が実用的です。日持ちする和菓子の手土産選び方ガイドも参考にしてください。
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まとめ:和三盆の産地で和菓子の本質に触れる
高松・香川の和菓子は、和三盆という他の産地では真似のできない素材を核として発展してきた。明治5年に元武士3人が開いた三友堂、高松城の瓦をかたどった宗家くつわ堂—老舗の背後には、廃藩置県後に職人へと転身した人々の物語がある。
豆花の体験で木型に和三盆糖を詰めてみると、「なぜこれほど高価なのか」「なぜ千年以上かけて磨かれてきたのか」が手の感触として伝わってくる。和菓子のおいしさは素材と職人の手仕事の掛け算だ、と改めて実感できる場所が高松にある。
旅行者なら三友堂と宗家くつわ堂の名店を訪れ、時間があれば豆花で体験を。地元に住む人なら季節ごとの生菓子を定点観測するように楽しむ—そんな使い方を高松の和菓子は提供してくれる。
参考情報
- 経済産業省 経済センサス‐活動調査 2020年 品目別都道府県別出荷額(e-Stat 統計表ID: 0004003981)
- 三友堂 公式サイト(https://www.sanyu-do.com/)
- 宗家くつわ堂 公式サイト(https://www.kutsuwado.co.jp/)
- 夢菓房たから 公式サイト(https://e-takara.jp/)
- 瀬戸内Finder「豆花で和三盆体験」(https://setouchifinder.com/ja/detail/743)
- 香川県発祥のもの一覧(https://kunitori-jp.net/origin-kagawa/)


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