最終更新: 2026-06-10
岐阜県中津川市には栗きんとんを製造する菓子店が50軒以上あり、毎年9月になると「栗きんとんめぐり」を目当てに多くの人が訪れます。秋は和菓子が一年で最も華やかになる季節です。
「秋の和菓子にはどんな種類があるの?」「9月・10月・11月で旬の和菓子は変わるの?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
この記事では、秋の和菓子を月別に15種類取り上げ、それぞれの由来や特徴を職人目線で解説します。まず秋の和菓子の全体像を押さえたうえで、月別のおすすめ、旬の素材と職人のこだわり、茶道で用いられる菓銘の意味、そして手土産としての選び方までお伝えします。
秋の和菓子とは?季節の移ろいを映す菓子文化
秋の和菓子とは、9月から11月にかけて作られる季節感のある和菓子の総称です。栗・柿・さつま芋・銀杏といった秋の実りを素材に使うものと、紅葉や月夜など秋の風景を意匠として表現するものの、大きく2つの系統に分けられます。
| 分類 | 特徴 | 代表例 |
|---|---|---|
| 素材系 | 秋の旬食材を主役にした和菓子 | 栗きんとん、芋羊羹、柿羊羹 |
| 意匠系 | 秋の風景や行事をかたどった和菓子 | 練り切り(紅葉・菊)、月見団子 |
| 行事系 | 秋の年中行事に結びついた和菓子 | おはぎ(お彼岸)、月見団子(十五夜) |
和菓子職人にとって秋は「素材が主役になる季節」と言われます。春は桜の香り、夏は涼しげな見た目が求められますが、秋は栗や芋など素材そのものの味わいが問われるため、仕入れや下ごしらえに最も神経を使う時期です。
和菓子の種類について詳しく知りたい方は、和菓子の種類一覧もあわせてご覧ください。
【9月】初秋の和菓子5選|月見と彼岸を彩る菓子
9月は夏の名残と秋の気配が混在する時期です。月見行事やお彼岸に合わせた和菓子が店頭に並び始めます。
1. 月見団子
十五夜(中秋の名月)に供える丸い団子です。月見団子の風習は江戸時代に庶民の間に広まったとされ、豊穣への感謝を込めてお供えします。関東では丸い白い団子を15個ピラミッド状に積み上げるのが一般的ですが、関西では里芋をかたどった楕円形に餡を巻いたものが主流です。
2026年の十五夜は9月25日です(国立天文台暦計算室より)。和菓子店では9月上旬から月見団子を販売するところが多く、早めに予約しておくと確実です。
月見団子を自宅で作ってみたい方は、月見団子の作り方で上新粉を使ったレシピを紹介しています。
2. おはぎ
秋のお彼岸(9月下旬)に欠かせない和菓子です。もち米とうるち米を混ぜて搗いた生地を、粒あん・こしあん・きなこ・ごまなどで包みます。古来より小豆の赤色には邪気を払う力があると信じられ、お彼岸の供物として定着しました。
秋のおはぎは「おはぎ」、春のそれは「ぼたもち」と呼び分けるのが一般的です。おはぎとぼたもちの違いについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
3. 栗蒸し羊羹
蒸し羊羹の生地に栗の甘露煮を加えた、秋限定の贅沢な一品です。練り羊羹と異なり、蒸し製法ならではのもっちりとした食感が特徴で、栗の粒がごろごろと入っているものほど秋らしさを感じられます。
9月中旬から販売を始める和菓子店が多く、新栗が出回る時期には「新栗蒸し羊羹」として期間限定で提供されることもあります。羊羹の種類について詳しくは羊羹の種類と違いをご覧ください。
4. 着せ綿(きせわた)
9月9日の重陽の節句にちなんだ上生菓子です。菊の花に綿をかぶせて夜露を染み込ませ、その綿で身体を拭くと長寿を得られるという古い風習を、和菓子で表現したものです。白い求肥やそぼろで菊花の上に「綿」を表し、秋の長寿祈願の心を伝えます。
5. 秋の練り切り(菊・初雁)
白あんをベースにした練り切りで、菊の花や空を渡る雁(かり)の姿をかたどったものが9月の定番です。職人が三角べらを使い、一つひとつ手作業で花弁や羽根を表現します。茶道の席では、9月に使われる菓銘として「有明」「十六夜(いざよい)」「雁鳴く」などがあり、いずれも秋の夜空や風情を表しています。
【10月】仲秋の和菓子5選|栗と紅葉が主役に
10月は栗が最も美味しくなる時期です。紅葉をモチーフにした和菓子も増え、秋の深まりを五感で楽しめます。
6. 栗きんとん
栗と砂糖だけで作る茶巾絞りの和菓子で、秋の和菓子の代表格です。発祥の地とされる岐阜県中津川市では、江戸時代後期から栗きんとん作りが盛んになりました。中山道の宿場町として栄えた中津川は日本有数の栗の産地でもあり、恵那栗の収穫は8月下旬から10月中旬まで続きます(農林水産省「うちの郷土料理」より)。
恵那栗は収穫時期によって味わいが変わります。
| 収穫時期 | 品種の特徴 | 味わい |
|---|---|---|
| 8月下旬〜9月下旬 | 極早生・早生品種 | 水分が多くあっさり |
| 9月下旬〜10月上旬 | 中生品種 | 味と水分のバランスが良い |
| 10月上旬〜中旬 | 晩生品種 | 実が締まり濃厚 |
自宅で栗きんとんを作ってみたい方は、栗きんとんの和菓子レシピで本格的な作り方を紹介しています。
7. 栗羊羹
練り羊羹に栗の甘露煮を入れた和菓子です。栗蒸し羊羹よりもなめらかな口当たりで、日持ちが良いのが特徴です。小豆の風味と栗の甘みが調和し、お茶請けとしてだけでなく贈答品としても人気があります。切り分けたときに断面に栗が見えるよう、職人は栗の配置にもこだわります。
8. 芋羊羹
さつま芋を蒸してつぶし、砂糖と寒天で固めたシンプルな和菓子です。東京・浅草の「舟和」の芋ようかんが有名ですが、全国各地の和菓子店でも秋になると地元産のさつま芋を使った芋羊羹が登場します。素材のほくほくとした甘さをそのまま活かすため、砂糖の量を極力控えるのが職人の腕の見せどころです。
9. 柿羊羹
干し柿や熟した柿をペースト状にして練り込んだ羊羹です。柿の産地として知られる岐阜県や奈良県の和菓子店に多く見られます。口に入れた瞬間に柿の風味がふわりと広がり、すっきりとした甘さが特徴です。
10. 紅葉の練り切り
色づいた紅葉の葉をかたどった上生菓子です。赤・橙・黄のグラデーションを一つの菓子の上で表現するのが職人の技で、ぼかし技法と呼ばれる色の混ぜ方で紅葉の移ろいを再現します。10月の茶席では「薄紅葉」「秋高し」「紅葉狩」といった菓銘が付けられ、目で楽しむ和菓子の真骨頂です。
【11月】晩秋の和菓子5選|冬への橋渡しを担う菓子
11月になると秋の名残を惜しむ和菓子と、冬の訪れを告げる和菓子が共存します。茶道では11月は「炉開き」の月でもあり、和菓子が特別な意味を持つ時期です。
11. 亥の子餅(いのこもち)
旧暦10月の亥の日に食べる餅菓子で、新暦では11月に当たります。猪の子(ウリ坊)をかたどった楕円形の餅で、中に餡を包みます。茶道の世界では11月の炉開きの際にいただく菓子として重んじられており、無病息災と子孫繁栄の願いが込められています。
12. 銀杏餅
銀杏の実を練り込んだ餅菓子や、銀杏の葉をかたどった上生菓子です。銀杏のほろ苦い風味と餡の甘みが絶妙に調和します。街路樹のイチョウが色づく11月にぴったりの和菓子です。
13. むかご饅頭
自然薯の珠芽(むかご)を使った饅頭で、晩秋ならではの珍しい和菓子です。むかごのほくほくとした食感と独特の風味が生地と合わさり、素朴ながらも深い味わいが楽しめます。山里の秋を感じさせる一品として、地方の和菓子店で見かけることがあります。
14. 吹き寄せ
紅葉・銀杏・松葉・どんぐりなど、秋の落ち葉や木の実を象った干菓子の詰め合わせです。「吹き寄せ」という名前は、風に吹き寄せられた落ち葉の様子に由来します。落雁や有平糖など複数の干菓子を一つの箱に詰め、箱を開けたときに晩秋の風景が広がるように工夫されています。手土産としても見栄えが良く、11月の贈り物に選ばれることが多い和菓子です。
15. 薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)・秋仕立て
すりおろした山芋を皮に使う上品な蒸し饅頭で、秋には紅葉や菊の焼印を押したり、皮に紫芋を混ぜて秋色に仕上げたりしたものが登場します。ふわりとした皮の食感と中のこしあんの滑らかさが特徴で、茶道の主菓子としても定番です。炉開きの11月には、特に丁寧に仕立てられた薯蕷饅頭が茶席に供されます。
秋の和菓子に使われる旬の素材と職人のこだわり
秋の和菓子の味を左右するのは、何よりも素材の質です。ここでは、職人が特にこだわる4つの旬素材を取り上げます。
| 素材 | 旬の時期 | 主な産地 | 代表的な和菓子 |
|---|---|---|---|
| 栗 | 9月〜10月 | 岐阜県(恵那栗)、茨城県、熊本県 | 栗きんとん、栗蒸し羊羹 |
| さつま芋 | 9月〜11月 | 千葉県、茨城県、鹿児島県 | 芋羊羹、芋きんつば |
| 柿 | 10月〜12月 | 奈良県、和歌山県、岐阜県 | 柿羊羹、干し柿巻き |
| 銀杏 | 10月〜11月 | 愛知県(祖父江)、大分県 | 銀杏餅 |
職人が特にこだわるのは栗の下処理です。収穫後の栗は0度前後の低温で数週間寝かせると、でんぷんが糖に変わって甘みが増します。この「追熟」工程を経てから蒸し上げることで、砂糖を最小限に抑えながらも濃厚な栗の味わいを引き出せるのです。和菓子店によって追熟の期間や温度管理が異なり、それが店ごとの味の違いにつながっています。
さつま芋も同様に、収穫後に1〜2か月貯蔵することで甘みが増します。芋羊羹の名店では、紅あずまや鳴門金時といった品種を指定して仕入れ、貯蔵期間をコントロールして最も甘い状態で加工しています。
秋の和菓子と茶道|菓銘に込められた季節の美意識
茶道と和菓子は切り離せない関係にあります。茶席で出される和菓子には「菓銘(かめい)」と呼ばれる名前が付けられ、そこに季節の情景や主催者の思いが込められています(全国和菓子協会「菓銘とは」参照)。
秋の菓銘には、月ごとに異なる風情が表現されます。
| 月 | 代表的な菓銘 | 込められた情景 |
|---|---|---|
| 9月 | 有明、十六夜、雁鳴く、月の桂 | 秋の月と渡り鳥 |
| 10月 | 秋高し、薄紅葉、紅葉狩、里の秋 | 紅葉と実りの風景 |
| 11月 | 錦秋、初時雨、木枯らし、山粧う | 晩秋から初冬への移ろい |
たとえば「有明(ありあけ)」は、夜明けの空にまだ月が残っている情景を指す菓銘です。白い求肥やそぼろで朝もやを表現し、淡い紫や橙のぼかしで夜明けの空を描く練り切りに使われます。和菓子の見た目だけでなく、名前からも秋の一場面を想像できるのが、茶道の和菓子ならではの楽しみ方です。
茶道での和菓子の選び方や、9月の茶道と和菓子についてはそれぞれの記事で詳しく取り上げています。
秋の和菓子の選び方|手土産・お取り寄せのポイント
秋は手土産に和菓子を選ぶ機会が増える季節です。敬老の日、お彼岸の挨拶、七五三のお祝いなど、贈り物の場面に合わせた選び方を押さえておきましょう。
| 場面 | おすすめの和菓子 | 選ぶポイント |
|---|---|---|
| 敬老の日(9月) | 栗蒸し羊羹、薯蕷饅頭 | 日持ちが良く、柔らかい食感のもの |
| お彼岸の手土産(9月) | おはぎ、秋の上生菓子 | 当日中に届けられるなら生菓子を |
| 秋のビジネス手土産 | 吹き寄せ、栗羊羹 | 個包装で日持ちするもの |
| 七五三のお祝い(11月) | 千歳飴、紅白饅頭 | 見た目が華やかで子どもも食べやすいもの |
| お取り寄せ | 栗きんとん、干し柿巻き | 冷蔵・冷凍配送に対応した商品 |
手土産を選ぶ際の3つの基準は「季節感」「日持ち」「相手の好み」です。秋の和菓子は素材の旬が短いものが多いため、「今しか食べられない」という季節限定感が喜ばれます。一方で、生菓子は日持ちが1〜2日と短いため、すぐに渡せない場合は羊羹や干菓子など賞味期限が長いものを選ぶと安心です。
秋の和菓子に関するよくある質問
Q1: 秋の和菓子はいつ頃から店頭に並びますか?
多くの和菓子店では9月上旬から秋の品揃えに切り替わります。栗きんとんは新栗が出回る9月中旬頃から、月見団子は十五夜の2〜3週間前から販売されるのが一般的です。人気商品は早期に売り切れることもあるため、お目当ての商品がある場合は事前予約をおすすめします。
Q2: 秋の和菓子で日持ちが良いのはどれですか?
練り羊羹(栗羊羹・柿羊羹)は未開封であれば1か月以上日持ちするものが多く、贈答品に適しています。吹き寄せなどの干菓子も2週間〜1か月程度の賞味期限があります。一方、栗きんとん(生菓子)は2〜3日、おはぎは当日中が目安です。
Q3: 栗きんとんはおせちのものと同じですか?
異なります。おせち料理の栗きんとんはさつま芋ベースの「栗金団」で、和菓子の栗きんとんは栗と砂糖のみで作る茶巾絞りの菓子です。和菓子の栗きんとんは岐阜県中津川市が発祥とされ、おせちの栗金団とは製法も味わいも別物です(農林水産省「うちの郷土料理」より)。
Q4: 秋の和菓子を通販でお取り寄せするときの注意点は?
生菓子(栗きんとん、おはぎなど)は冷蔵または冷凍配送に対応しているか確認してください。冷凍品は解凍に数時間かかるため、届いてすぐには食べられない点に注意が必要です。また、栗きんとんなど旬の素材を使った商品は販売期間が限られるため、9月になったら早めに注文するのがおすすめです。
Q5: 秋の和菓子と相性の良いお茶は何ですか?
栗きんとんや栗蒸し羊羹など甘みがしっかりした和菓子には、渋みのある抹茶や濃いめに淹れた煎茶がよく合います。芋羊羹のような素朴な甘さの和菓子にはほうじ茶がおすすめです。干菓子の吹き寄せには薄茶(うすちゃ)を合わせると、繊細な甘みと抹茶の風味が互いを引き立てます。
Q6: 子どもに人気の秋の和菓子はどれですか?
大学芋、おはぎ(きなこやごま)、芋羊羹など、素朴で食べやすいものが子どもに人気です。月見団子も丸い形がかわいらしく、一緒に作れるので秋の食育にもなります。
まとめ:秋の和菓子を月ごとに楽しむ
秋の和菓子のポイントを振り返ります。
- 9月は月見団子やおはぎなど、行事と結びついた和菓子が中心
- 10月は栗きんとんや栗蒸し羊羹など、旬の素材を活かした和菓子が最盛期を迎える
- 11月は亥の子餅や吹き寄せなど、晩秋から冬へ向かう季節感を表現した和菓子が並ぶ
- 手土産には「季節感」「日持ち」「相手の好み」の3つを基準に選ぶ
- 菓銘に注目すると、和菓子の奥深さがさらに広がる
秋の和菓子は種類が豊富なうえ、月ごとに移り変わっていくのが魅力です。まずは地元の和菓子店に足を運んで、今の時期にしか出会えない一品を探してみてください。
春の和菓子や夏の和菓子、冬の和菓子についてもそれぞれ詳しく紹介していますので、四季を通じた和菓子の楽しみ方もぜひご覧ください。
参考情報
- 農林水産省「うちの郷土料理 栗きんとん 岐阜県」(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/38_17_gifu.html)
- 全国和菓子協会「菓銘とは」(https://www.wagashi.or.jp/monogatari/ajiwai/meika/)
- 恵那川上屋「栗きんとんの時期は秋から!」(https://column.enakawakamiya.co.jp/kuri-kinton/kuri-kinton-season.html)
- 国立天文台暦計算室「中秋の名月とは」(https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/C3E6BDA9A4CECCBEB7EEA4C8A4CF.html)
- 遠州流茶道「亥の子餅と炉開き」(https://www.enshuryu.com/others/%E4%BA%A5%E3%81%AE%E5%AD%90%E9%A4%85%E3%81%A8%E7%82%89%E9%96%8B%E3%81%8D/)


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