「静岡の和菓子」と聞いて、わさび漬けやお茶菓子しか思い浮かばない方も多いのではないでしょうか。しかし経済産業省・総務省の経済構造実態調査(2022年)によると、静岡県の和生菓子出荷額は16,055百万円(約160億円)で、全国47都道府県の中で第10位。これは東京都(17,806百万円・9位)に次ぐ規模で、浜松を含む県内全体で和菓子づくりが根付いていることがうかがえます(e-Stat調べ、2022年時点)。
この記事では、まず統計データで静岡県の和菓子産業の規模を確認したうえで、江戸時代に東海道を旅する人々の間で評判になった「安倍川もち」「追分羊かん」「うさぎ餅」という3つの銘菓――当時「駿河三大名物」と呼ばれた菓子たち――の歴史と老舗を紹介します。静岡の銘菓がなぜ東海道沿いに集中しているのか、その背景も合わせて解説します。
静岡県の和菓子事情を数字で見る

経済産業省・総務省の経済構造実態調査(2022年、品目編、統計表ID: 0004048564)から、静岡県の和生菓子産業の規模を確認します。
| 項目 | 静岡県 |
|---|---|
| 和生菓子 出荷額 | 16,055百万円(全国10位) |
| 和生菓子 産出事業所数 | 56事業所 |
全国トップ層と比較すると、静岡県の立ち位置が見えてきます。
| 都道府県 | 和生菓子 出荷額(百万円) | 産出事業所数 |
|---|---|---|
| 愛知県 | 29,926 | 69 |
| 千葉県 | 23,994 | 32 |
| 北海道 | 23,668 | 82 |
| 埼玉県 | 23,487 | 55 |
| 福岡県 | 22,741 | 50 |
| 大阪府 | 22,711 | 56 |
| 神奈川県 | 22,197 | 31 |
| 京都府 | 21,135 | 72 |
| 東京都 | 17,806 | 59 |
| 静岡県 | 16,055 | 56 |
1事業所あたりの平均出荷額は、静岡県が約287百万円。大阪府(約406百万円)や京都府(約294百万円)には及ばないものの、東京都(約302百万円)に近い水準です。事業所数は56と大阪府と同数で、全国的に見ても和菓子店の密度が高い県だといえます。県内の和菓子事情は浜松の和菓子おすすめガイドでも紹介しているほか、全都道府県の出荷額ランキングなど業界全体の統計データは和菓子業界の統計まとめページでも確認できます。
なぜ静岡に銘菓が集中するのか? 東海道の「宿場町文化」が生んだ名物

静岡県の代表銘菓を見ていくと、ひとつの産地に集中しているわけではなく、いずれも江戸時代の東海道沿いという共通点があります。これは、埼玉の銘菓が農業地理(米・大豆・さつまいも)から生まれたのとは異なる成り立ちです。
静岡市の中心部は、江戸と京都を結ぶ東海道のちょうど中間に位置し、参勤交代の大名行列や伊勢参り・金沢詣での旅人が頻繁に行き交う土地でした。安倍川の渡し場や、東海道と久能山への道が分岐する「追分」など、旅人が足を止める場所に茶屋が生まれ、そこで出された餅や羊羹が名物として全国に知られるようになりました。江戸時代の滑稽本「東海道中膝栗毛」(十返舎一九著)にも安倍川もちが登場するほど、当時から知名度のある食べ物だったことがわかります。
「安倍川もち」— 徳川家康の逸話が残る駿河の代表銘菓

安倍川もちは、搗いた餅にきな粉と砂糖をまぶした素朴な菓子です。静岡市観光ナビによると、徳川家康が安倍川上流の金山を視察した際、地元の男が黄金の粉に見立てたきな粉をまぶした餅を献上し、家康がこれを「安倍川もち」と名付けたという逸話が伝わっています。もう一つの説として、安倍川の渡し場の茶屋で売られていた名物だったため、この名で呼ばれるようになったという地理的な由来も伝わっており、全国各地のきな粉餅のルーツともいわれています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | 石部屋(せきべや) |
| 創業 | 1804年(文化元年) |
| 所在地 | 静岡県静岡市葵区弥勒2-5-24 |
| 代表銘菓 | 安倍川もち |
石部屋は文化元年(1804年)創業、220年以上の歴史を持つ安倍川もちの老舗です。安倍川橋のたもとには石部屋のほかにも、150年以上の歴史を持つ「松柏堂本店」など複数の老舗が軒を連ねており、いずれも江戸時代以来の製法を守り続けています。
「追分羊かん」— 元禄8年創業、東海道三百年の蒸し羊羹

追分羊かんは、竹の皮に包んだ素朴な蒸し羊羹です。小豆と砂糖だけで作る淡い甘さと、竹皮から移る清涼感が特徴で、冷やして食べるのが定番です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | 追分羊かん本店 |
| 創業 | 1695年(元禄8年) |
| 所在地 | 静岡市清水区追分2-13-21 |
| 代表銘菓 | 追分羊かん |
追分羊かん本店公式の由緒によると、創業は元禄8年(1695年)で、330年以上同じ味を守り続けています。店名の「追分」は、東海道と久能山方面への道が分岐する地名に由来し、参勤交代で東海道を往来した大名や、駿府に隠居した江戸幕府15代将軍・徳川慶喜も好んで食べたと伝わります。現在も竹皮包みの昔ながらの製法を続けており、賞味期限が短い生菓子ならではの素朴さが特徴です。
「うさぎ餅」— 一度姿を消し、平成に復活した駿河の銘菓
うさぎ餅は、求肥であんを包んだ菓子で、名前の由来は静岡市葵区・古庄にあった茶店の脇でウサギが飼われていたことにあります。江戸時代後期には狂歌師・大田南畝(蜀山人)が評判にしたことで広く知られるようになりましたが、製造元がなくなり一度は姿を消しました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | 松木屋 西脇店 |
| 復活年 | 1994年(平成6年) |
| 所在地 | 静岡県静岡市駿河区西脇1058-1 |
| 代表銘菓 | うさぎ餅 |
静岡伊勢丹がうさぎ餅の商標登録を取得し、松木屋に製造・販売を委託する形で平成6年(1994年)に復活を果たしました。安倍川もち・追分羊かんと合わせて、江戸時代には「駿河三大名物」と呼ばれていた菓子で、3つとも東海道の旅人文化から生まれたという共通点を持っています。
静岡の和菓子はどこで買える? 用途別ガイド
| シーン | おすすめの銘菓 | 選び方のポイント |
|---|---|---|
| 日常のお茶請け・帰省土産 | 安倍川もち(石部屋など) | 当日中が賞味期限の生菓子。安倍川橋周辺で食べ比べができる |
| 冷やして楽しむ夏の手土産 | 追分羊かん(追分羊かん本店) | 竹皮包みで常温保存可能だが、冷やすと清涼感が増す |
| 話題性のある静岡土産 | うさぎ餅(松木屋西脇店) | 一度消えて復活した逸話があり、話のきっかけになる |
購入の際は各老舗の店舗が基本ですが、追分羊かん本店は定休日(日曜・月曜)があるため事前確認がおすすめです。静岡駅周辺の土産物店でも一部取り扱いがあります。手土産全般の選び方の基本は和菓子の選び方ガイドでも解説していますので、あわせて参考にしてください。
編集部メモ: 資料を調べる中で意外だったのは、静岡の代表銘菓3つがすべて「東海道を旅する人のための菓子」として生まれたという共通点でした。埼玉のように農作物の産地が銘菓を生んだのではなく、静岡は「人が行き交う道」そのものが銘菓を育てた土地だということがわかります。うさぎ餅が一度製造元を失いながら、商標取得と委託製造という形で平成に復活した経緯も、地域の銘菓を絶やさない工夫として印象的でした。
静岡の和菓子に関するよくある質問
Q1: 静岡を代表する和菓子は何ですか?
「安倍川もち」「追分羊かん」「うさぎ餅」の3つで、江戸時代には「駿河三大名物」と呼ばれていました。いずれも東海道の旅人文化から生まれた菓子です。
Q2: 静岡県は和菓子の生産が盛んなのですか?
経済産業省の経済構造実態調査(2022年)によると、静岡県の和生菓子出荷額は16,055百万円で全国10位。事業所数は56で、東京都に次ぐ規模があります。
Q3: 安倍川もちの名前の由来は何ですか?
徳川家康が安倍川上流の金山視察時に献上された餅を「安倍川もち」と名付けたという逸話と、安倍川の渡し場の茶屋で売られていた名物だったからという説の2つが伝わっています。
Q4: うさぎ餅はなぜ一度消えたのですか?
製造元がなくなり姿を消しましたが、静岡伊勢丹が商標登録を取得し、松木屋に製造・販売を委託する形で平成6年(1994年)に復活しました。
Q5: 追分羊かん本店はいつ創業しましたか?
元禄8年(1695年)創業で、330年以上にわたり同じ製法を守り続けています。店名は東海道と久能山方面への道が分岐する「追分」という地名に由来します。
まとめ: 静岡の和菓子は「東海道の旅人文化」が育んだ味
- 静岡県の和生菓子出荷額は16,055百万円(56事業所)で、全国10位。東京都に次ぐ規模です(経済構造実態調査2022年)。
- 安倍川もち(石部屋、1804年創業)、追分羊かん(追分羊かん本店、1695年創業)、うさぎ餅(松木屋、1994年復活)が、江戸時代「駿河三大名物」と呼ばれた代表銘菓です。
- 静岡の銘菓は農業地理ではなく、東海道を旅する人々が足を止めた場所(渡し場・分岐点)から生まれたという共通点があります。
- うさぎ餅のように一度製造が途絶えても、商標取得と委託製造で復活した例もあり、地域の菓子文化を継承する工夫がうかがえます。
静岡の和菓子は、ひとつの産地に集中せず、東海道という「道」そのものが育てた味です。安倍川橋のたもとで安倍川もちを食べ比べたり、追分羊かん本店の竹皮包みを手土産にしたりと、旅のついでに立ち寄れる名店ばかりなので、ぜひ訪れてみてください。県内の和菓子文化については浜松の和菓子おすすめガイドもあわせてご覧ください。
この記事は和菓子道編集部が執筆しました。和菓子道は和菓子職人のキャリアと和菓子文化に特化した専門メディアです。
詳しくは編集部についてをご覧ください。
参考情報
- 経済産業省・総務省「経済構造実態調査」2022年(e-Stat 政府統計の総合窓口、統計表ID: 0004048564、https://www.e-stat.go.jp/)
- 静岡市観光ナビ「静岡名物 安倍川もちとは?歴史・おすすめ店・作り方」(https://www.visit-shizuoka.com/feature/detail_54.html)
- 農林水産省「郷土料理 安倍川もち」(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/search_menu/menu/36_18_shizuoka.html)
- 静岡市観光ナビ「追分羊かん本舗」(https://www.visit-shizuoka.com/spot/detail_66.html)
- 旅する新聞「追分羊かんは、評判通り美味しかった!」(http://shinise.tv/oiwakeyokan-shizuoka/)
- 4travel「松木屋 西脇店 クチコミ」(https://4travel.jp/dm_shisetsu_tips/14175722)
- さくやおいブログ「石部屋『安倍川もち』200年続く甘味処」(https://www.sakuyaoi.com/entry/sekibeya)
- 静岡新聞アットエス「古庄発祥の『うさぎ餅』の歴史を調査」(https://www.at-s.com/feed/article/slowcal/1343693.html)

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