最終更新: 2026-10-14
岩手県の和菓子は、内陸の盛岡市・一関市と、三陸沿岸の大船渡市という、地理的にも成り立ちの異なる土地にそれぞれ老舗が根を張っているのが特徴です。経済産業省・総務省の経済構造実態調査(2022年、品目編)によると、岩手県の和生菓子出荷額は6,089百万円・39事業所で、全国47都道府県中28位です(e-Stat調べ、2022年時点)。1事業所あたりの出荷額は約156.1百万円で、全国平均(約259.9百万円)の約0.60倍です。
この記事では、明治36年(1903年)創業の松栄堂(一関市)、明治42年(1909年)創業の山善(盛岡市)、そして1960年のチリ地震津波と2011年の東日本大震災という2度の津波を乗り越えてきた昭和8年(1933年)創業のさいとう製菓(大船渡市)という3つの老舗を、統計データとあわせて紹介します。
岩手県の和菓子事情を数字で見る

経済産業省・総務省の経済構造実態調査(2022年、品目編)から、岩手県の和生菓子産業の規模を確認します。
| 項目 | 岩手県 |
|---|---|
| 和生菓子 出荷額 | 6,089百万円(全国28位/47) |
| 和生菓子 産出事業所数 | 39事業所 |
| 1事業所あたり出荷額 | 約156.1百万円 |
全国平均(出荷額合計450,715百万円÷事業所数合計1,734事業所)は1事業所あたり約259.9百万円のため、岩手県の1事業所あたり出荷額は全国平均の約0.60倍です。これまで紹介した秋田県(全国平均の0.29倍、小規模分散型)よりは高く、鳥取県(全国平均の1.25倍)よりは低い、中位から低位にかけての水準です。業界全体の都道府県別ランキングは和菓子業界の統計まとめページでも確認できます。
内陸と沿岸、異なる成り立ちを持つ3つの老舗

岩手県は、北東北の中でも内陸部(盛岡市・一関市)と三陸沿岸部(大船渡市)で地理的な条件が大きく異なります。和菓子の歴史をたどると、内陸の城下町・宿場町では江戸末期から明治にかけて和菓子店が根付く一方、沿岸の漁業・水産加工の町では昭和に入ってから餅屋や菓子屋が興るケースも見られます。岩手県内でも、盛岡城下(盛岡市)と奥州街道の宿場町(一関市)で明治期に創業した2店と、三陸沿岸の大船渡市で昭和初期に餅屋として創業し、後に全国区の銘菓を生み出した1店という、成り立ちの異なる老舗が共存しています。
「松栄堂」— 明治36年創業、「餅のまち」一関を代表する老舗

松栄堂は、明治36年(1903年)に岩手県一関市で創業した老舗です。初代・主馬蔵が当初は飴やパンなどを扱う駄菓子屋のような形態で始め、婿養子として入った2代目の和菓子職人によって、現在のような和菓子店へ転換しました。
代表銘菓の「ごま摺り団子」は、香ばしいごまの摺り蜜を団子に入れた菓子で、ずんだクリーム団子・抹茶クリーム団子といったバリエーションもあります。一関は冠婚葬祭や季節の行事に餅が欠かせない「餅のまち」として知られており、ごま摺り団子はこうした地域の餅文化に根ざした銘菓として親しまれています。もう一つの名物「ふすべ餅」は、元々はどじょうが入った餅だったものを、現在はすりおろした牛蒡と鶏肉で作るように変化させた商品です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | 松栄堂 |
| 創業 | 明治36年(1903年) |
| 所在地 | 岩手県一関市 |
| 代表銘菓 | ごま摺り団子、ふすべ餅 |
駄菓子屋から和菓子店へ転換した成り立ちと、「餅のまち」一関の食文化に根ざした銘菓を守り続けている点が、松栄堂の特徴です。
「山善」— 明治42年創業、盛岡で愛される2つの看板商品

山善(御菓子司 山善)は、明治42年(1909年)に岩手県盛岡市材木町で創業した老舗です。看板商品の「もりおか絵巻」は昭和54年(1979年)に発売され、1984年の全国育樹祭では皇太子殿下・美智子妃殿下(当時)にご購入いただいた実績を持ちます。もう一つの人気商品「もちもち焼」は、平成10年(1998年)に和スイーツとして発売されました。
受賞歴も豊富で、昭和36年(1961年)の第15回全国菓子大博覧会では「栗饅頭」が名誉大賞を受賞し、平成元年(1989年)には盛岡茶道工芸展で岩手放送社長賞を受賞しています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | 山善(御菓子司 山善) |
| 創業 | 明治42年(1909年) |
| 所在地 | 岩手県盛岡市材木町 |
| 代表銘菓 | もりおか絵巻、もちもち焼 |
明治期創業から昭和・平成にかけて複数の看板商品を生み出し、皇室関係者の購入歴や全国規模の博覧会での受賞歴を積み重ねてきた点が、山善の特徴です。
「さいとう製菓」— 2度の津波を越えた大船渡の「かもめの玉子」

さいとう製菓は、昭和8年(1933年)11月に岩手県大船渡市で、齊藤キヌエが「齊藤餅屋」の屋号で大福もち・ゆべしを製造販売したことから始まりました。戦中の経済食料統制で一度休業したものの、昭和23年(1948年)に齊藤俊雄によって再開され、昭和26年(1951年)頃に「鴎の玉子」の製造に着手しています。商品名は平成11年(1999年)に、漢字の「鴎の玉子」からひらがなの「かもめの玉子」に改称されました。
さいとう製菓は、1960年のチリ地震津波と2011年の東日本大震災という2度の大きな津波を経験しています。東日本大震災では本社事務所・直営店5店舗・和菓子工場1棟が津波で流失しましたが、「かもめの玉子」を製造する中井工場は高台にあったため大きな損傷を免れました。震災直後の3月13日からは避難所へかもめの玉子を無償提供(総額約2,000万円分)し、4月29日には仮店舗をオープン。その後、製造・販売を再開しています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | さいとう製菓 |
| 創業 | 昭和8年(1933年) |
| 所在地 | 岩手県大船渡市 |
| 代表銘菓 | かもめの玉子 |
餅屋から始まり、2度の津波を乗り越えながら全国区の銘菓を作り続けてきた点が、さいとう製菓の特徴です。
岩手の銘菓はどこで買える? 選び方のポイント
| シーン | おすすめの店 | 選び方のポイント |
|---|---|---|
| 一関観光で地域の餅文化を味わいたい | 松栄堂(ごま摺り団子・ふすべ餅) | 明治36年創業、「餅のまち」一関の銘菓 |
| 盛岡で皇室関係者も購入した歴史ある菓子を探したい | 山善(もりおか絵巻・もちもち焼) | 明治42年創業、全国菓子大博覧会で受賞歴 |
| 大船渡・三陸のお土産に全国的に知られた銘菓を選びたい | さいとう製菓(かもめの玉子) | 昭和8年創業、2度の津波を越えて守られてきた味 |
いずれも明治から昭和にかけて創業し、盛岡市・一関市・大船渡市という内陸と沿岸の異なる土地でそれぞれの由来を持つ菓子を守っています。地域の餅文化を味わうなら松栄堂、歴史と博覧会受賞歴を楽しむなら山善、震災を越えてきた物語とともに味わうならさいとう製菓と、目的に応じて選んでみてください。和菓子選びに迷ったときは和菓子の選び方ガイドもあわせて参考にしてください。
編集部メモ: 統計データだけを見ると、岩手県の1事業所あたり出荷額は全国平均の約0.60倍で、これまで紹介した秋田県(0.29倍)よりは高いものの、全国平均には届かない水準でした。ただ実際に老舗を調べてみると、盛岡市・一関市という内陸の2店が明治期から地域の食文化(城下町の菓子文化、「餅のまち」の餅文化)に根ざした商品を守り続けている一方、大船渡市のさいとう製菓は昭和初期創業の餅屋から始まり、2度の津波という大きな試練を越えて全国区の銘菓を育てたという、同じ県内でも内陸と沿岸でまったく異なる物語を持っていることがわかりました。統計上の「全国平均より低い」という数値の裏に、こうした対照的な成り立ちがあるという点が、今回調べていて印象的でした。
岩手の和菓子に関するよくある質問
Q1: 岩手を代表する和菓子は何ですか?
松栄堂の「ごま摺り団子」、山善の「もりおか絵巻」「もちもち焼」、さいとう製菓の「かもめの玉子」などが挙げられます。
Q2: 「かもめの玉子」とはどんな菓子ですか?
岩手県大船渡市のさいとう製菓が作る卵形の銘菓です。昭和8年創業の「齊藤餅屋」から始まり、昭和26年頃に「鴎の玉子」として製造が始まり、平成11年にひらがなの「かもめの玉子」に改称されました。1960年のチリ地震津波と2011年の東日本大震災という2度の津波を越えて作り続けられています。
Q3: 松栄堂はどんな歴史を持つ店ですか?
明治36年(1903年)に岩手県一関市で創業しました。当初は駄菓子屋のような形態で始まり、婿養子の2代目によって和菓子店に転換しました。「餅のまち」一関の食文化に根ざした「ごま摺り団子」「ふすべ餅」が代表銘菓です。
Q4: 盛岡でお土産を買うならどこがおすすめですか?
明治42年創業の山善が盛岡市材木町で営業しており、昭和54年発売の「もりおか絵巻」(1984年の全国育樹祭で皇太子殿下・美智子妃殿下が購入)と、平成10年発売の「もちもち焼」を扱っています。
Q5: 岩手県は和菓子の生産が盛んなのですか?
経済産業省の経済構造実態調査(2022年)によると、岩手県の和生菓子出荷額は6,089百万円で全国28位、1事業所あたりの出荷額は全国平均の約0.60倍です。秋田県(0.29倍)よりは高いものの、全国平均には届かない水準です。
関連記事: 奈良の和菓子おすすめ完全ガイド|饅頭発祥の地に伝わる老舗3店の銘菓を解説
まとめ: 岩手の和菓子は、内陸と沿岸で対照的な物語を持つ老舗が今も続く
- 岩手県の和生菓子出荷額は6,089百万円(39事業所)で全国28位。1事業所あたりの出荷額は全国平均の約0.60倍です(経済構造実態調査2022年)。
- 松栄堂(明治36年創業)は、「餅のまち」一関の食文化に根ざした「ごま摺り団子」「ふすべ餅」を守り続けています。
- 山善(明治42年創業)は、皇室関係者の購入歴や博覧会受賞歴を持つ「もりおか絵巻」「もちもち焼」を盛岡で作り続けています。
- さいとう製菓(昭和8年創業)は、2度の津波を越えて全国区の銘菓「かもめの玉子」を大船渡で育ててきました。
岩手の和菓子は、産業規模としては全国平均を下回る一方、盛岡市・一関市・大船渡市という内陸と沿岸の異なる土地で、城下町の菓子文化・餅のまちの食文化・震災を越えた物語という対照的な背景を持つ老舗が今も営業を続けているのが特徴です。地域の餅文化を味わうなら松栄堂、歴史と受賞歴を楽しむなら山善、震災を越えた物語とともに味わうならさいとう製菓と、目的に応じて選んでみてください。
この記事は和菓子道編集部が執筆しました。和菓子道は和菓子職人のキャリアと和菓子文化に特化した専門メディアです。
詳しくは編集部についてをご覧ください。
参考情報
- 経済産業省・総務省「経済構造実態調査」2022年(e-Stat 政府統計の総合窓口、https://www.e-stat.go.jp/)
- 老舗map「菓匠 松栄堂」(https://shinise.tv/shoeido-ichinoseki/)
- 日本商工会議所 Assist Biz「ごまともちのコンビネーションは最強! 『ごま摺り団子』」(https://ab.jcci.or.jp/article/83672/)
- 御菓子司山善「山善のこだわり」(https://okashi-yamazen.com/?page_id=38)
- さいとう製菓公式サイト「さいとう製菓の歴史」(https://saitoseika.co.jp/about/history/)
- TKC全国会「震災に立ち向かう経営者たち さいとう製菓」(https://www.tkc.jp/cc/senkei/201107_special03/)


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