「長野の和菓子」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、栗の名産地として知られる小布施町の栗菓子ではないでしょうか。経済産業省・総務省の経済構造実態調査(2022年、品目編)によると、長野県の和生菓子出荷額は15,459百万円・70事業所で、全国47都道府県中12位です(e-Stat調べ、2022年時点)。新潟県などと並び、中部地方の中でも上位の規模を持つ県といえます。
この記事では、小布施町に集まる3つの栗菓子専門店――文化5年(1808年)創業で栗ようかんの元祖とされる桜井甘精堂、明治26年(1893年)創業で名物「栗おこわ」を生んだ竹風堂、もとは酒蔵でありながら栗菓子店へ転じた小布施堂――の歴史と商品の違いを、統計データとあわせて紹介します。
長野県の和菓子事情を数字で見る

経済産業省・総務省の経済構造実態調査(2022年、品目編)から、長野県の和生菓子産業の規模を確認します。
| 項目 | 長野県 |
|---|---|
| 和生菓子 出荷額 | 15,459百万円(全国12位/47) |
| 和生菓子 産出事業所数 | 70事業所 |
| 1事業所あたり出荷額 | 約220.8百万円 |
全国平均(出荷額合計450,715百万円÷事業所数合計1,734事業所)は1事業所あたり約259.9百万円のため、長野県の和菓子店の平均規模は全国平均よりやや小さいものの、事業所数自体は70と比較的多く、県内に和菓子店が広く分布していることがうかがえます。業界全体の都道府県別ランキングは和菓子業界の統計まとめページでも確認できます。
なぜ小布施町に栗菓子の老舗が集中しているのか

長野県の和菓子を調べていくと、県全体に店が分散している一方で、上高井郡小布施町という一つの町に、全国的に知られる栗菓子の老舗が3つも集まっているという独特の構造が見えてきます。和菓子の歴史をたどると、多くの郷土銘菓は藩や寺社の庇護のもとで生まれていますが、小布施の場合は江戸時代に松代藩が将軍家へ小布施の栗を献上したことをきっかけに栗の名産地としての評判が広がり、それを原料にした菓子づくりが複数の商家で発展したという経緯があります。結果として、創業時期も出自(菓子屋・酒蔵)も異なる3店が、同じ町で栗菓子という同じ土俵を競い合う形になりました。
「桜井甘精堂」— 文化5年創業、栗ようかん二百年の元祖

桜井甘精堂は、文化5年(1808年)に初代・桜井幾右衛門が栗を粉にした「栗落雁」を創製したのが始まりです。その後、弟の武右衛門が小豆あんを使わず栗だけでようかんを作る製法を考案し、文政2年(1819年)に「栗ようかん」が誕生しました。1820年には松代藩が将軍家に小布施の栗を献上したことで、小布施栗の名が全国に広まったと伝わっています。2019年には栗ようかんの創製から200年という節目を迎えました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | 桜井甘精堂(さくらいかんせいどう) |
| 創業 | 文化5年(1808年)、栗ようかん創製は文政2年(1819年) |
| 所在地 | 長野県上高井郡小布施町774 |
| 営業時間 | 8:30〜17:00(無休) |
| 代表銘菓 | 純栗ようかん、栗かの子、マロンシュー |
本店には「栗の木ひろば」という見学コーナーも併設されており、栗や菓子づくりについて学べます。純栗ようかんは栗・砂糖・寒天のみで作られており、素材そのものの味を活かした製法が200年以上受け継がれています。
「竹風堂」— 明治26年創業、名物「栗おこわ」で知られる老舗

竹風堂は明治26年(1893年)創業の老舗栗菓子店です。長野県観光機構(nagano-cvb.or.jp)によると、看板商品の「栗おこわ」は昭和47年(1972年)に創製された名物料理で、厳選した国産栗をたっぷり混ぜ込んで炊き上げた折詰として、北信濃の郷土食として親しまれています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | 竹風堂(ちくふうどう) |
| 創業 | 明治26年(1893年) |
| 栗おこわ創製 | 昭和47年(1972年) |
| 所在地 | 長野県上高井郡小布施町973 |
| 代表銘菓 | 栗おこわ、栗ようかん、栗かの子、どら焼山 |
竹風堂は国産栗100%・人工着色料や食品添加物不使用にこだわっており、栗おこわは店舗で蒸して提供されるため直営店でのみ購入できます。北斎館から徒歩約3分という小布施観光の中心エリアに本店があり、甘味処として栗あんソフトクリームや栗あんしるこも提供しています。
「小布施堂」— 酒蔵から栗菓子店へ、まちづくりにも関わった老舗

小布施堂は、もともとお茶や塩の問屋・酒造業(桝一市村酒造場)を営んでいた商家が、明治中期から後期(明治30年代)にかけて栗菓子の製造を始めたのが始まりです。1923年(大正12年)に会社として設立されました。桜井甘精堂・竹風堂とは異なり、菓子屋としてではなく酒蔵として出発した点が特徴です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | 小布施堂(おぶせどう) |
| 創業 | 明治中期〜後期(明治30年代)、法人設立は1923年(大正12年) |
| 所在地 | 長野県上高井郡小布施町808 |
| 代表銘菓 | 栗鹿ノ子、栗羊羹 |
1969年には当時の社長・市村郁夫氏が小布施町長に就任し、建築家の宮本忠長氏とともに町並み保存によるまちづくりに着手しました。この取り組みが今日の小布施の観光地としての街並みの基盤になっており、小布施堂は菓子屋でありながら地域づくりにも関わってきた老舗といえます。
小布施の栗菓子はどこで買える? 選び方のポイント
| シーン | おすすめの店 | 選び方のポイント |
|---|---|---|
| 元祖の歴史・伝統製法を味わいたい | 桜井甘精堂(純栗ようかん) | 栗・砂糖・寒天のみで作る製法が200年変わらず続く |
| 食事として楽しみたい | 竹風堂(栗おこわ) | 店舗で蒸し上げる直営店限定の一品。食事どきの来店がおすすめ |
| 町歩きとあわせて立ち寄りたい | 小布施堂(栗鹿ノ子・栗羊羹) | 本店のほか傘風楼・蔵部など複数の施設があり、町並み散策と合わせやすい |
いずれの店も小布施町内に本店を構えており、徒歩圏内で3店を巡ることができます。栗菓子は旬の時期(9〜11月)に生の栗を使った季節限定商品が登場することも多く、和菓子の選び方ガイドもあわせて参考にしてください。栗を使った和菓子全般については栗鹿の子の記事でも解説しています。
編集部メモ: 統計データを見ると長野県は事業所数70と全国的にも多い部類に入りますが、調べてみるとその代表格である小布施の3店は、創業時期(1808年・1893年・明治30年代)も出発点(菓子屋・酒蔵)もまったく異なることがわかりました。同じ町・同じ栗という素材を使いながら、桜井甘精堂は元祖の伝統製法、竹風堂は食事としての栗おこわ、小布施堂はまちづくりという、それぞれ異なる軸で栗菓子文化を支えてきた点が印象的でした。
長野の和菓子に関するよくある質問
Q1: 長野を代表する和菓子は何ですか?
上高井郡小布施町の栗菓子が代表的です。桜井甘精堂の栗ようかん、竹風堂の栗おこわ、小布施堂の栗鹿ノ子など、栗を使った菓子が町を挙げて発展してきました。
Q2: 栗ようかんの元祖はどこですか?
桜井甘精堂とされています。文化5年(1808年)創業で、弟の桜井武右衛門が文政2年(1819年)に栗ようかんを創製し、2019年に200年の節目を迎えました。
Q3: 栗おこわはどこで食べられますか?
竹風堂の直営店で購入・食事ができます。昭和47年(1972年)に創製された名物で、店舗で蒸して提供するため直営店限定です。
Q4: 長野県は和菓子の生産が盛んなのですか?
経済産業省の経済構造実態調査(2022年)によると、長野県の和生菓子出荷額は15,459百万円で全国12位、事業所数は70。1事業所あたりの出荷額は全国平均よりやや小さいものの、事業所数自体は多い県です。
Q5: 小布施の3店の違いは何ですか?
桜井甘精堂は元祖・伝統製法の栗ようかん、竹風堂は食事系の栗おこわ、小布施堂はもと酒蔵でまちづくりにも関わった店という、それぞれ異なる特徴を持っています。
関連記事: 三重の和菓子おすすめ完全ガイド|赤福だけじゃない、お伊勢参りの旅人が支えた老舗3店を徹底解説
まとめ: 長野の和菓子は、一つの町に集まった3つの栗菓子物語
- 長野県の和生菓子出荷額は15,459百万円(70事業所)で全国12位。事業所数は全国的にも多い部類に入ります(経済構造実態調査2022年)。
- 桜井甘精堂(1808年創業)は栗ようかんの元祖とされ、2019年に200年の節目を迎えました。
- 竹風堂(1893年創業)は昭和47年に栗おこわを創製し、食事としての栗菓子文化を広げました。
- 小布施堂はもと酒蔵という出自を持ちながら栗菓子店へ転じ、町並み保存のまちづくりにも関わった老舗です。
長野の和菓子は、単一の老舗の歴史ではなく、小布施という一つの町に集まった3つの異なる物語が織りなす栗菓子文化です。元祖の伝統製法を味わうなら桜井甘精堂、食事として楽しむなら竹風堂、町歩きとあわせるなら小布施堂と、目的に応じて選んでみてはいかがでしょうか。中部地方の和菓子事情は新潟の和菓子おすすめガイドもあわせてご覧ください。
この記事は和菓子道編集部が執筆しました。和菓子道は和菓子職人のキャリアと和菓子文化に特化した専門メディアです。
詳しくは編集部についてをご覧ください。
参考情報
- 経済産業省・総務省「経済構造実態調査」2022年(e-Stat 政府統計の総合窓口、統計表ID: 0004048564、https://www.e-stat.go.jp/)
- 桜井甘精堂公式サイト「本店|店舗案内」(https://www.kanseido.co.jp/sp/shop/head/)
- 中部電力 交流サイト「栗菓子をつくり続けて200年超 桜井甘精堂」(https://koryu.chuden.co.jp/wagashi_28)
- 竹風堂 公式サイト(https://chikufudo.com/)
- 長野県観光機構「創製名物折詰『栗おこわ』」(https://www.nagano-cvb.or.jp/modules/sightseeing/page/312)
- おぶせ観光局「竹風堂 小布施本店」(https://www.obusekanko.jp/spot/chikufudo)
- 小布施堂公式サイト「会社概要」(https://obusedo.com/about/)
- nippon.com「昔も今も家業で地域文化に貢献する栗菓子屋―小布施堂」(https://www.nippon.com/ja/features/c00619/)


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