最終更新: 2026-10-20
和菓子店の事業承継には、子や親族に引き継ぐ「親族内承継」、従業員に引き継ぐ「従業員承継」、社外の第三者に引き継ぐ「第三者承継(M&A)」の3つの方法があります。後継者が決まっていない場合でも、ブランドやレシピに価値があれば第三者承継で店を存続させられる可能性があります。中小企業庁の補助金や事業承継・引継ぎ支援センターといった公的な支援制度もあるため、準備は早く始めるほど選択肢が広がります。
和菓子店の事業承継の全体像:始める前に知っておくこと

和菓子店は家族経営・小規模事業者が多い業種です。経済産業省 経済構造実態調査(2022年、品目編)によると、和生菓子を生産する事業所数は全国で1,734事業所(2022年時点)にとどまっており、1店舗あたりの規模が小さく、後継者が見つからなければ技術や味がそのまま途絶えてしまう構造にあります。
| 承継方法 | 概要 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 親族内承継 | 子・親族に経営と技術を引き継ぐ | 取引先・従業員の理解を得やすい、準備期間を長く取れる | 親族に経営の意思・適性がないと成立しない |
| 従業員承継 | 長年勤めた従業員(職人・番頭格)に引き継ぐ | 技術・顧客対応の引き継ぎがスムーズ | 従業員側に株式・設備を買い取る資金力が必要 |
| 第三者承継(M&A) | 社外の個人・企業に事業を譲渡する | 親族・従業員に後継者がいなくても存続できる | 相手探し・条件交渉に時間がかかる、ブランドの方向性が変わる可能性 |
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 検討から完了までの期間 | 複数年単位(後継者選定・技術伝承・契約手続きを含む) |
| 相談窓口の利用料 | 事業承継・引継ぎ支援センターは無料相談が基本 |
| 公的補助金 | 事業承継・M&A補助金(中小企業基盤整備機構)で上限800万〜1,000万円 |
和菓子店の事業承継の手順【ステップ解説】

Step 1: 経営資源を洗い出す
レシピ・配合(餡の炊き方や寒天の配合など数値化されていない「手の感覚」を含む)、顧客リスト、取引先(原材料の仕入れ先・卸先)、設備(餡練り機・蒸し器等)、店舗の賃貸借契約や許認可を一覧にして整理します。承継方法を決める前の土台になる作業で、後回しにすると相手探しの段階で説明が難しくなります。
Step 2: 承継方法を検討し、早めに相談窓口を使う
親族・従業員に承継の意思がある人がいるかを確認し、いなければ第三者承継(M&A)を検討します。都道府県ごとに設置されている「事業承継・引継ぎ支援センター」(中小企業庁所管、中小企業基盤整備機構が運営支援)は、どの方法が合うかの相談を無料で受け付けています。承継の決断自体を先延ばしにせず、方向性が決まっていない段階でも相談できます。
Step 3: 後継者(候補)との合意形成と技術伝承
後継者候補が決まったら、経営権の移転だけでなく、配合やタイミングの見極めといった技術面の伝承計画を立てます。和菓子の技術は数値化しづらい部分が多く、短期間では引き継ぎきれないため、現経営者が並行して指導する期間をスケジュールに組み込みます。
Step 4: 許認可・契約の引き継ぎ手続き
菓子製造業の営業許可は、取引形態によって手続きが異なります。株式譲渡(会社の株式を譲渡し、法人格はそのまま存続させる方法)であれば許可は原則そのまま維持されますが、事業譲渡(店舗や設備など事業の一部・全部を譲渡する方法)の場合は、2023年の食品衛生法改正により、従来必要だった廃業届と新規許可申請の二重手続きが不要になり、「地位承継届」の提出で引き継げるようになりました。ただし施設基準やHACCP対応の確認は別途必要です。店舗の賃貸借契約や金融機関の借入についても、承継先への名義変更・契約見直しを個別に確認します。
Step 5: 公的支援制度を活用する
事業承継・M&A補助金(中小企業基盤整備機構)の「事業承継促進枠」は、5年以内に親族内承継または従業員承継を予定している事業者が対象で、補助上限は800万円(一定の賃上げを実施する場合は1,000万円)です。第三者承継(M&A)側の支援策もあるため、事業承継・引継ぎ支援センターや商工会議所に早めに相談し、制度の対象になるか確認します。
事業承継で失敗しないためのコツ・注意点

| よくある失敗 | 原因 | 対策 |
|---|---|---|
| 相談・準備を始める時期が遅い | 「まだ先の話」と後回しにしてしまう | 後継者の有無にかかわらず、早期に事業承継・引継ぎ支援センターへ相談する |
| 技術伝承が計画されていない | レシピ・配合が「職人の感覚」のまま言語化されていない | 配合・工程を数値や手順として書き出し、並行指導の期間を確保する |
| 許認可の引き継ぎ漏れ | 株式譲渡と事業譲渡で手続きが違うことを把握していない | 事業譲渡の場合は地位承継届の提出と施設基準・HACCP対応の確認を事前に行う |
| 従業員・取引先への説明が遅れる | 承継がまとまった後に一斉通知し、不信感を招く | 契約締結の見通しが立った段階で、段階的に関係者へ説明する |
事業承継の費用・コストの目安

| 項目 | 費用相場 | 備考 |
|---|---|---|
| 事業承継・引継ぎ支援センターへの相談 | 無料 | 都道府県ごとに窓口がある公的サービス |
| 第三者承継(M&A)の仲介・譲渡価格 | 時価純資産+営業利益の数年分が目安(年買法) | ブランド・看板商品・常連客の定着度で変動する |
| 事業承継・M&A補助金 | 上限800万〜1,000万円(事業承継促進枠) | 公募要領で対象経費・申請時期を確認する |
よくある質問
Q1: 後継者が全く見つからない場合はどうすればいいですか?
親族・従業員に承継する人がいない場合は、第三者承継(M&A)という選択肢があります。後継者不在や経営規模が小さくても、ブランド・レシピ・常連客に価値があれば譲渡できる可能性があるため、まずは事業承継・引継ぎ支援センターに相談してみましょう。
Q2: 菓子製造業の許可はそのまま引き継げますか?
取引形態によって手続きが異なります。株式譲渡であれば許可は原則そのまま維持されますが、事業譲渡の場合は2023年の食品衛生法改正により「地位承継届」の提出で引き継げるようになりました。施設基準の確認は別途必要なので、事前に保健所へ相談してください。
Q3: 事業承継と廃業はどちらを選ぶべきですか?
経営が成り立っている、またはブランド・顧客基盤に価値がある場合は、廃業よりも事業承継(親族内・従業員・第三者のいずれか)を検討する余地があります。判断に迷う場合も、事業承継・引継ぎ支援センターでは廃業を含めた相談が可能です。
まとめ:和菓子店の事業承継のポイント
- 承継方法は親族内承継・従業員承継・第三者承継(M&A)の3パターンがあり、後継者不在でも第三者承継という選択肢がある
- 経営資源(レシピ・顧客・取引先・設備・許認可)の洗い出しが、どの承継方法を選ぶ場合でも最初のステップになる
- 許認可の引き継ぎは株式譲渡と事業譲渡で手続きが異なり、事業譲渡の場合は地位承継届が必要
- 事業承継・M&A補助金など公的支援制度があるため、早めに事業承継・引継ぎ支援センターに相談する
独立して新たに和菓子店を開業する方法については和菓子屋の開業方法と資金はいくら?で、後継者として和菓子店で働きたい方向けの求人の探し方は和菓子屋の跡継ぎ求人を探す方法で詳しく解説しています。業界全体のデータは業界データまとめページでも定期更新しています。
参考情報
- 経済産業省 経済構造実態調査(2022年、品目編)(e-Stat 政府統計の総合窓口、https://www.e-stat.go.jp/)
- 事業承継・M&A補助金のご案内(中小企業基盤整備機構、https://seisansei.smrj.go.jp/subsidy_info/succession_subsidy.html)
- 事業承継・引継ぎ支援センター 事例紹介(中小企業基盤整備機構、https://shoukei.smrj.go.jp/case/)
- 菓子・和菓子・スイーツ店のM&Aとは?相場・流れ・製造許可の引き継ぎを解説(TRANBI、https://www.tranbi.com/ma-column/detail/?id=313)


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