「滋賀の和菓子」と聞いてもすぐに銘菓が思い浮かばない方もいるかもしれませんが、実は経済産業省・総務省の経済構造実態調査(2022年)によると、滋賀県の和生菓子出荷額は12,252百万円で、全国47都道府県中17位に入ります(e-Stat調べ、2022年時点)。京都のすぐ隣という地理的な条件もあり、東海道・中山道の宿場町や城下町で育った個性の強い老舗が今も営業を続けています。
この記事では、まず統計データで滋賀県の和菓子産業の規模を確認したうえで、草津宿の「うばがもち」、彦根藩主・井伊直弼ゆかりの「埋れ木」、大津の弁慶伝説にちなむ「三井寺力餅」という3つの老舗銘菓と、現代の大手メーカー「叶匠寿庵」まで紹介します。
滋賀県の和菓子事情を数字で見る

経済産業省・総務省の経済構造実態調査(2022年、品目編)から、滋賀県の和生菓子産業の規模を確認します。
| 項目 | 滋賀県 |
|---|---|
| 和生菓子 出荷額 | 12,252百万円(全国17位/47) |
| 和生菓子 産出事業所数 | 21事業所 |
| 1事業所あたり出荷額 | 約583百万円 |
全国平均(出荷額合計450,715百万円÷事業所数合計1,734事業所)は1事業所あたり約260百万円のため、滋賀県の1事業所あたり出荷額はその2倍を超えています。山口県(32事業所で約91百万円)のように事業所数が多く小規模な店が中心の県とは対照的に、滋賀県は事業所数自体は全国平均(約37事業所)より少ないものの、1事業所あたりの出荷額が大きい構造です。これは後述する叶匠寿庵のような生産規模の大きいメーカーの存在が全体の数字を押し上げていると考えられますが、統計上は企業別の内訳までは確認できないため、あくまで傾向としての見方です。業界全体の都道府県別ランキングは和菓子業界の統計まとめページでも確認できます。
なぜ滋賀に老舗が集まる? 東海道・中山道が育てた宿場町の味

滋賀県の代表銘菓を見ていくと、京都に入る直前の宿場町・城下町でそれぞれ生まれている点が共通しています。草津は東海道と中山道が合流する交通の要衝で、参勤交代の大名や旅人が行き交う宿場町でした。大津は琵琶湖の水運と東海道が接続する港町で、京都への最後の宿場として賑わいました。彦根は井伊家35万石の城下町で、江戸との往来も多い土地でした。
いずれも「京都に入る前、あるいは京都を出た直後に立ち寄る土地」という共通点があり、旅人向けの菓子文化が発達した背景がうかがえます。静岡の銘菓が東海道の宿場文化から生まれた点と似ていますが、滋賀はさらに中山道・琵琶湖水運という複数の交通路が交差する土地である点が特徴です。
「うばがもち」— 草津宿で400年以上続く、徳川家康の逸話を持つ老舗

うばがもちは、戦国時代に滅ぼされた武家の曾孫を託された乳母が、養育費を得るため東海道沿いで餅を売り始めたのが起源とされる菓子です。餅の上に乳白色の餡をあしらった見た目が特徴で、草津宿の名物として定着しました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | うばがもちや 本店 |
| 創業 | 永禄12年(1569年) |
| 所在地 | 滋賀県草津市大路2-13-19 |
| 代表銘菓 | うばがもち |
1600年、関ヶ原の戦いに勝利した徳川家康がこの地を通った際、当時84歳だった乳母の餅を気に入り、「養老亭」と書いた額を贈ったという逸話が伝わっています。松尾芭蕉や与謝蕪村など多くの文人もこの茶屋に立ち寄ったとされ、草津宿を代表する名物として400年以上にわたり作り続けられています。
「埋れ木」— 彦根藩主・井伊直弼ゆかりの意匠が込められた銘菓

埋れ木は、和三盆糖に抹茶を加えた砂糖菓子で、彦根藩の御用達菓子として作られてきました。創業者の糸屋重兵衛はもともと湖北地方から彦根に移り住んだ糸問屋で、副業として煎餅などを製造していましたが、妻のますが夢で菓子作りを教わったという逸話を機に、本格的な菓子製造に転じたと伝わっています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | いと重菓舗 本店 |
| 創業 | 文化6年(1809年) |
| 所在地 | 滋賀県彦根市本町1-3-37 |
| 代表銘菓 | 埋れ木 |
「埋れ木」という名前は、後に彦根藩主・江戸幕府大老となる井伊直弼が青年時代を過ごした「埋木舎」に由来します。直弼自身が彫った柳文様の木型を使って作られたとされ、参勤交代の大名行列への贈答品としても用いられるなど、江戸時代から藩の重要な場面で使われてきた菓子です。
「三井寺力餅」— 弁慶の怪力伝説にちなむ、大津の老舗

三井寺力餅は、つきたての餅に蜜と抹茶をブレンドした青大豆きな粉をまぶした菓子です。添加物や保存料を使わず、その日に販売する分だけ毎朝餅をつくる製法を続けています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | 三井寺力餅本家 |
| 創業 | 明治2年(1869年) |
| 所在地 | 滋賀県大津市浜大津2丁目1-30 |
| 代表銘菓 | 三井寺力餅 |
「力餅」という名前は、比叡山延暦寺の荒法師・弁慶が三井寺(園城寺)の鐘を引きずって持ち帰ったという伝説にちなんでおり、弁慶の怪力を菓子の名前に重ねたものです。三井寺の門前という立地も、この菓子が土産物として定着した背景になっています。
現代の大型メーカー「叶匠寿庵」が示す、滋賀の和菓子産業の変化
ここまでの3店はいずれも江戸時代以前の創業ですが、滋賀県の和菓子産業を語るうえでは、昭和以降に生まれた大型メーカーの存在も欠かせません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | 叶匠寿庵 |
| 創業 | 1958年(昭和33年) |
| 所在地 | 滋賀県大津市(本社・長等) |
| 代表銘菓 | あも(1971年発売) |
叶匠寿庵は、大津市役所の観光課職員だった芝田清次が、当時の大津に代表的な土産物がないことを理由に退職し、自ら菓子づくりを始めたことで生まれた会社です。羽二重餅と小豆を組み合わせた「あも」は1971年の発売以来、同社の代表商品として作り続けられています。1985年には「お菓子作りの原点は農業から」という発想のもと、瀬田川沿いの丘陵地に約6万3,000坪の農園兼施設「寿長生の郷」を開設しました。江戸時代以前からの老舗が多い滋賀県の中で、昭和以降に大きく成長したメーカーという点で異色の存在です。
滋賀の和菓子はどこで買える? 用途別ガイド
| シーン | おすすめの銘菓 | 選び方のポイント |
|---|---|---|
| 日常のお茶請け・宿場町めぐりの土産 | うばがもち(うばがもちや) | 乳白色の餡をのせた見た目が特徴。日持ちは短め |
| 格式を重視した手土産 | 埋れ木(いと重菓舗) | 和三盆糖の上品な甘さ。歴史的な由来を話題にしやすい |
| 大津観光・寺社参拝の土産 | 三井寺力餅(三井寺力餅本家) | きな粉のシンプルな味。三井寺参拝とセットで買いやすい |
| 広く配る手土産・ギフト | あも(叶匠寿庵) | 大型メーカーの商品で入手経路が多く、まとまった数を用意しやすい |
購入の際はいずれも実店舗が基本で、うばがもちやと三井寺力餅本家は無休ですが、いと重菓舗は火曜定休のため事前確認がおすすめです。手土産全般の選び方の基本は和菓子の選び方ガイドでも解説していますので、あわせて参考にしてください。
編集部メモ: 調べる中で印象的だったのは、滋賀県の銘菓がいずれも「京都の手前」という土地の性格を背景に生まれていたことです。草津は東海道と中山道の分岐点、大津は琵琶湖水運と東海道の接続点、彦根は江戸との往来が多い城下町と、それぞれ異なる交通の役割を持ちながらも、最終的には京都という大きな消費地を意識した菓子文化が育っています。江戸時代以前の老舗と、昭和に生まれた叶匠寿庵のような大型メーカーが同じ県内で併存している点にも、地域の和菓子産業の厚みを感じました。
滋賀の和菓子に関するよくある質問
Q1: 滋賀を代表する和菓子は何ですか?
草津宿の「うばがもち」、彦根の「埋れ木」、大津の「三井寺力餅」の3つが歴史の長い代表銘菓です。あわせて、昭和以降に成長した「叶匠寿庵」の「あも」も滋賀を代表する商品のひとつです。
Q2: 滋賀県は和菓子の生産が盛んなのですか?
経済産業省の経済構造実態調査(2022年)によると、滋賀県の和生菓子出荷額は12,252百万円で全国17位、事業所数は21事業所です。事業所数は全国平均より少ない一方、1事業所あたりの出荷額は全国平均の2倍を超えています。
Q3: 「埋れ木」という名前の由来は何ですか?
彦根藩主・江戸幕府大老の井伊直弼が青年時代を過ごした「埋木舎」に由来します。直弼自身が彫った柳文様の木型を使って作られたと伝わっています。
Q4: 「三井寺力餅」の名前の由来は何ですか?
比叡山延暦寺の荒法師・弁慶が三井寺(園城寺)の鐘を引きずって持ち帰ったという伝説にちなんで名付けられました。
Q5: 叶匠寿庵はいつ、どのように創業したのですか?
1958年、大津市役所の観光課職員だった芝田清次が、大津に代表的な土産物がないことを理由に退職し、自ら菓子づくりを始めたことで創業しました。代表商品「あも」は1971年に発売されています。
関連記事: 宮崎の和菓子おすすめ完全ガイド|鯨ようかん・チーズ饅頭の老舗と由来
まとめ: 滋賀の和菓子は「東海道の老舗」と「現代の大手」が併存する
- 滋賀県の和生菓子出荷額は12,252百万円(21事業所)で全国17位。事業所数は少ないものの1事業所あたり出荷額は全国平均の2倍超です(経済構造実態調査2022年)。
- うばがもち(うばがもちや、1569年創業)は草津宿の名物で、徳川家康が額を贈ったという逸話が伝わります。
- 埋れ木(いと重菓舗、1809年創業)は彦根藩主・井伊直弼ゆかりの意匠が込められた和三盆糖の菓子です。
- 三井寺力餅(三井寺力餅本家、1869年創業)は弁慶の怪力伝説にちなむ大津の老舗銘菓です。
- 叶匠寿庵(1958年創業)は昭和以降に成長した大型メーカーで、代表商品「あも」は1971年から作り続けられています。
滋賀の和菓子は、京都の手前に位置する宿場町・城下町が育てた老舗の味と、昭和以降に成長した大型メーカーの味が同じ県内に併存しているのが特徴です。京都観光とあわせて、草津・大津・彦根の老舗を食べ比べてみてはいかがでしょうか。京都の老舗については京都の和菓子老舗ガイドもあわせてご覧ください。
この記事は和菓子道編集部が執筆しました。和菓子道は和菓子職人のキャリアと和菓子文化に特化した専門メディアです。
詳しくは編集部についてをご覧ください。
参考情報
- 経済産業省・総務省「経済構造実態調査」2022年(e-Stat 政府統計の総合窓口、統計表ID: 0004048564、https://www.e-stat.go.jp/)
- 日商Assist Biz「東海道草津宿で愛される名物もち『うばがもち』滋賀県草津市 うばがもちや」(https://ab.jcci.or.jp/article/50487/)
- しんせつ.tv「うばがもちやの400年以上愛される うばがもち(姥が餅)/ 滋賀 草津市 永禄12年創業(1569年創業)」(https://shinise.tv/ubagamochi/)
- うばがもちや「うばがもち物語」(http://www.ubagamochiya.jp/story)
- るるぶ&more.「うばがもちや本店」店舗情報(https://rurubu.jp/andmore/spot/80025685)
- いと重菓舗「いと重のご紹介」(https://www.itojyu.com/coordinate/aboutus.html)
- しんせつ.tv「いと重菓舗、埋れ木・益壽糖を買う / 滋賀 彦根市 1809年創業(文化6年)」(https://shinise.tv/itojyu-hikone/)
- NAVITIME「いと重菓舗 本店」店舗情報(https://www.navitime.co.jp/poi?spot=02301-4700223)
- びわこビジターズビューロー「三井寺力餅本家」(https://www.biwako-visitors.jp/spot/detail/11538/)
- びわ湖大津経済新聞「大津百町百福物語 Vol.14 弁慶の伝説から生まれた『三井寺力餅』」(https://biwako-otsu.keizai.biz/column/28/)
- 三井寺力餅本家「店舗案内」(https://www.tikaramoti.jp/shop/)
- Wikipedia「叶 匠壽庵」(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%B6_%E5%8C%A0%E5%A3%BD%E5%BA%B5)
- precious.jp「叶 匠壽庵(かのう しょうじゅあん)|市役所職員が自ら立ち上がって郷土の菓子づくりに挑戦!創作和菓子店誕生のきっかけ」(https://precious.jp/articles/-/16099)
- るるぶ&more.「【滋賀】叶 匠壽庵が手掛ける広大な『寿長生の郷』の楽しみ方」(https://rurubu.jp/andmore/article/18455)


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