「山口の和菓子」と聞いて外郎(ういろう)を思い浮かべる方は多いと思いますが、実は山口の外郎は名古屋や小田原の外郎とはまったく違う菓子だということをご存知でしょうか。経済産業省・総務省の経済構造実態調査(2022年)によると、山口県の和生菓子出荷額は2,923百万円で、全国47都道府県中34位。広島や福岡に比べると産業規模は大きくありませんが、その分、地域に根付いた個性の強い銘菓が残っています(e-Stat調べ、2022年時点)。
この記事では、まず統計データで山口県の和菓子産業の規模を確認したうえで、他地域とは製法が異なる「山口外郎」、萩の夏みかんを丸ごと使った「夏蜜柑丸漬」、山口市の「名菓舌鼓」という3つの代表銘菓と、その老舗の歴史を紹介します。
山口県の和菓子事情を数字で見る

経済産業省・総務省の経済構造実態調査(2022年、品目編)から、山口県の和生菓子産業の規模を確認します。
| 項目 | 山口県 |
|---|---|
| 和生菓子 出荷額 | 2,923百万円(全国34位/47) |
| 和生菓子 産出事業所数 | 32事業所 |
| 1事業所あたり出荷額 | 約91百万円 |
全国平均(出荷額合計450,715百万円÷事業所数合計1,734事業所)は1事業所あたり約260百万円のため、山口県の和菓子店は全国平均より小規模な事業所が中心であることがうかがえます。隣接する広島県(14,680百万円・51事業所)と比べると出荷額は5分の1程度ですが、事業所数で見ると人口規模に対して一定数の菓子店が営業を続けていることがわかります。業界全体の都道府県別ランキングは和菓子業界の統計まとめページでも確認できます。
なぜ山口の銘菓は他地域と違う? 城下町と藩がそれぞれ生んだ味

山口県の代表銘菓を見ていくと、ひとつの産地ではなく、山口市・萩市・防府市という異なる城下町・歴史的背景を持つ土地でそれぞれ独自に生まれている点が特徴です。これは静岡のように東海道という一本の道が銘菓を育てたケースとは異なり、江戸時代に長州藩(萩藩)の支配下にあった複数の城下町・商業町が、それぞれの土地の産物や職人の技術を背景に銘菓を生み出した成り立ちです。
山口市は大内氏の城下町として栄えた土地で、外郎はその中で生まれました。萩市は毛利家36万石の城下町で、特産品だった夏みかんを活かした菓子が発達しました。防府市は日本三大天神の一つ・防府天満宮の門前町で、参拝客向けの菓子文化が根付いています。
「山口外郎」— わらび粉で作る、名古屋・小田原とは別物のういろう

山口の外郎は、名古屋外郎(米粉主体の蒸しカステラ状)や小田原外郎(米粉・餅粉中心)とは原材料が異なり、わらび粉に砂糖・小豆を加えて蒸すのが特徴です。もちもち・しっとりとした食感で、冷やして食べても硬くならない点が他地域の外郎と大きく異なります。発祥は山口市の大内御堀にあった「福田屋」とされ、江戸時代の1654年(承応3年)、幕府の国目付を饗応した料理の記録に初見があるとされています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | 御堀堂(みほりどう) 本店 |
| 創業 | 1927年(昭和2年) |
| 所在地 | 山口県山口市駅通り1-5-7 |
| 代表銘菓 | 御堀堂の外郎 |
御堀堂は、元祖福田屋で製造技術を学んだ創業者・田中順助が、大内御堀から出て昭和2年(1927年)に開業した外郎専門店で、もうすぐ創業100年を迎えます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | 数井製菓(かずいせいか) |
| 創業 | 1932年(昭和7年) |
| 所在地 | 山口県防府市今市町1-17 |
| 代表銘菓 | 山口乃外郎(生外郎) |
数井製菓は防府天満宮の門前町にある外郎専門店で、90年以上にわたって生外郎(なまういろう)の味を受け継いでいます。防府天満宮の参拝土産として親しまれてきた点が、山口市の御堀堂とは異なる成り立ちです。
「夏蜜柑丸漬」— 萩の夏みかんを皮ごと使った、5日間かけて作る銘菓

夏蜜柑丸漬は、実をくり抜いた夏みかんの皮の中に羊羹を流し込み、皮を2晩かけて糖蜜で煮込んで作る菓子で、仕上げまで5日間を要します。見た目が夏みかんそのものという独自性の高い菓子です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | 光國本店(みつくにほんてん) |
| 創業 | 1858年(安政5年) |
| 所在地 | 山口県萩市大字熊谷町42 |
| 代表銘菓 | 夏蜜柑丸漬 |
光國本店は萩の特産品である夏みかんを使った菓子の元祖とされる老舗です。萩は毛利家の城下町で、武家屋敷の庭先に夏みかんが植えられていたことが特産化のきっかけと伝わっており、その実を無駄にせず活かす工夫として生まれた菓子といえます。
「名菓舌鼓」— 津和野から来た職人が生んだ求肥饅頭

名菓舌鼓は、一般的な餡入り饅頭とは異なる求肥(もち状の生地)を使った饅頭です。創業者の竹原彌太郎が津和野(現在の島根県津和野町)から山口に出て開業し、試行錯誤の末に生み出しました。当初は単に「舌鼓」と呼ばれていましたが、時の内閣総理大臣・寺内正毅(長州藩出身)が命名した逸話から「名菓舌鼓」という名前が定着したと伝わっています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | 山陰堂(さんいんどう) 本店 |
| 創業 | 1883年(明治16年) |
| 所在地 | 山口県山口市中市町6-15 |
| 代表銘菓 | 名菓舌鼓 |
店名の「山陰堂」は、創業者が山陰地方の津和野から出てきたことに由来します。現在は本店を含め山口県内6店舗で営業しています。
山口の和菓子はどこで買える? 用途別ガイド
| シーン | おすすめの銘菓 | 選び方のポイント |
|---|---|---|
| 日常のお茶請け・帰省土産 | 山口外郎(御堀堂・数井製菓) | わらび粉ベースで日持ちは短め。冷蔵が基本 |
| 見た目で話題になる手土産 | 夏蜜柑丸漬(光國本店) | 夏みかんの形がそのまま残る菓子。日持ちは常温で比較的長い |
| 山口市内で買える定番土産 | 名菓舌鼓(山陰堂) | 求肥饅頭で、県内6店舗どこでも購入可能 |
購入の際はいずれも実店舗が基本で、光國本店や御堀堂は不定休・営業時間の変更があるため事前確認がおすすめです。手土産全般の選び方の基本は和菓子の選び方ガイドでも解説していますので、あわせて参考にしてください。
編集部メモ: 調べる中で印象的だったのは、「ういろう」という同じ名前の菓子が地域によって原材料からまったく違うという事実でした。名古屋・小田原の米粉系ういろうを知っている方ほど、わらび粉で作る山口外郎のもちもちした食感に驚くのではないかと思います。夏蜜柑丸漬のように、仕上げに5日間かける菓子が今も作り続けられている点にも、地域の素材を無駄にしない工夫の歴史を感じました。
山口の和菓子に関するよくある質問
Q1: 山口を代表する和菓子は何ですか?
わらび粉で作る「山口外郎」、萩の「夏蜜柑丸漬」、山口市の「名菓舌鼓」の3つが代表的な銘菓です。それぞれ山口市・萩市・防府市など異なる土地で生まれました。
Q2: 山口の外郎は名古屋や小田原の外郎と同じものですか?
違います。名古屋・小田原の外郎は米粉主体の蒸しカステラ状の菓子ですが、山口の外郎はわらび粉に砂糖・小豆を加えて蒸すため、もちもち・しっとりとした食感になります。
Q3: 山口県は和菓子の生産が盛んなのですか?
経済産業省の経済構造実態調査(2022年)によると、山口県の和生菓子出荷額は2,923百万円で全国34位、事業所数は32。全国平均より小規模な事業所が中心です。
Q4: 夏蜜柑丸漬はどのように作られていますか?
実をくり抜いた夏みかんの皮に羊羹を流し込み、皮を2晩かけて糖蜜で煮込むなど、仕上げまで5日間かけて作られる手の込んだ菓子です。
Q5: 「名菓舌鼓」という名前の由来は何ですか?
当初は「舌鼓」と呼ばれていましたが、時の内閣総理大臣・寺内正毅が「名菓舌鼓と改称した方がよかろう」と命名したという逸話が伝わっています。
まとめ: 山口の和菓子は「城下町ごとの個性」が生んだ味
- 山口県の和生菓子出荷額は2,923百万円(32事業所)で全国34位。全国平均より小規模な事業所が中心です(経済構造実態調査2022年)。
- 山口外郎(御堀堂・数井製菓)は、名古屋・小田原の米粉系外郎とは違い、わらび粉で作るもちもちした独自の菓子です。
- 夏蜜柑丸漬(光國本店、1858年創業)は萩の夏みかんを皮ごと使った、仕上げに5日間かける菓子です。
- 名菓舌鼓(山陰堂、1883年創業)は津和野出身の職人が生んだ求肥饅頭で、山口市内で広く購入できます。
山口の和菓子は、ひとつの産地が独占しているのではなく、山口市・萩市・防府市というそれぞれの城下町が独自に育てた味です。他地域の「ういろう」との違いを体感しに、山口外郎から食べ比べてみてはいかがでしょうか。中国地方の和菓子事情は広島の和菓子おすすめガイドもあわせてご覧ください。
この記事は和菓子道編集部が執筆しました。和菓子道は和菓子職人のキャリアと和菓子文化に特化した専門メディアです。
詳しくは編集部についてをご覧ください。
参考情報
- 経済産業省・総務省「経済構造実態調査」2022年(e-Stat 政府統計の総合窓口、統計表ID: 0004048564、https://www.e-stat.go.jp/)
- 山口県観光/旅行サイト おいでませ山口へ「山口県民が選んだ!おすすめの外郎(ういろう)5選」(https://yamaguchi-tourism.jp/feature/detail_303.html)
- おいでませ山口館「御堀堂『御堀堂の外郎』のお話」(https://yamaguchi-kan.jp/yamaguchi/yamaguchi-573/)
- 御堀堂「山口外郎由来と御堀堂」(https://www.mihorido.com/yurai-mihorido.html)
- たびたびほうふ「数井製菓」(https://visit-hofu.jp/spot/%E6%95%B0%E4%BA%95%E8%A3%BD%E8%8F%93/)
- ふるさとチョイス「山口乃外郎 数井製菓株式会社」商品ページ(https://www.furusato-tax.jp/product/detail/35206/7004134)
- るるぶ&more.「光國本店」(https://rurubu.jp/andmore/spot/80035075)
- ぐるたび「山口県萩市の銘菓『光國本店』の『夏蜜柑丸漬』」(https://gurutabi.gnavi.co.jp/a/a_305/)
- 山口いいとこ発見!「名菓舌鼓!山口の老舗山陰堂の味や歴史がすごい!!」(https://xn--n8ja1ax8hx09vzyhxtan6s.club/2020/12/17/meikashitatudumi/)


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