最終更新: 2026-10-21
奈良県は、日本で最初の饅頭が生まれた「饅頭発祥の地」として知られています。室町時代に中国から渡来した林浄因(りんじょういん)が奈良の地で饅頭を創作し、その功績は今も奈良市内の林神社(漢國神社境内)で「菓祖神」として祀られています。経済産業省・総務省の経済構造実態調査(2022年、品目編)によると、奈良県の和生菓子出荷額は3,288百万円・22事業所で、全国47都道府県中33位です(e-Stat調べ、2022年時点)。1事業所あたりの出荷額は約149.5百万円で、全国平均(約259.9百万円)の約0.57倍です。
この記事では、天正13年(1585年)創業の本家菊屋(大和郡山市)、元禄14年(1701年)創業の千代乃舎竹村(奈良市)、江戸時代後期創業の萬々堂通則(奈良市)という3つの老舗を、「饅頭発祥の地」としての奈良の歴史とあわせて紹介します。
奈良県の和菓子事情を数字で見る

経済産業省・総務省の経済構造実態調査(2022年、品目編)から、奈良県の和生菓子産業の規模を確認します。
| 項目 | 奈良県 |
|---|---|
| 和生菓子 出荷額 | 3,288百万円(全国33位/47) |
| 和生菓子 産出事業所数 | 22事業所 |
| 1事業所あたり出荷額 | 約149.5百万円 |
全国平均(出荷額合計450,715百万円÷事業所数合計1,734事業所)は1事業所あたり約259.9百万円のため、奈良県の1事業所あたり出荷額は全国平均の約0.57倍です。これまで紹介した鳥取県(全国平均の1.25倍)や岩手県(全国平均の0.60倍)よりもやや低い水準で、出荷額の規模としては全国的に中位から下位に位置します。業界全体の都道府県別ランキングは和菓子業界の統計まとめページでも確認できます。
「饅頭発祥の地」としての奈良 — 林浄因と薯蕷饅頭の歴史

出荷額の統計だけを見ると奈良県の和菓子産業は全国的に中位から下位ですが、和菓子の歴史をたどると、奈良は日本の饅頭文化が生まれた土地として特別な位置を占めています。
貞和5年(1349年)、中国から禅僧・龍山徳見(りゅうざんとくけん)に随行して来日した林浄因は、帰国の際に住む場所として奈良・漢國神社(かんごうじんじゃ)の近くを選びました。当時の中国の饅頭は肉を詰めたものでしたが、仏教では肉食が避けられていたため、林浄因は肉の代わりに小豆の餡を詰めた饅頭を創作したと伝えられています。この饅頭が、日本で最初の饅頭とされる「薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)」のはじまりです。
林浄因の功績を讃え、漢國神社の境内にある林神社では、林浄因を日本で唯一の「菓祖神(菓子の神様)」として祀っています。毎年4月19日には、お菓子業界の繁栄を祈願する「饅頭まつり」が執り行われ、千本杵餅つきやきな粉餅の振る舞いなどの催しが行われます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 人物 | 林浄因(中国から渡来) |
| 来日 | 貞和5年(1349年) |
| ゆかりの神社 | 林神社(奈良市・漢國神社境内) |
| 年中行事 | 饅頭まつり(毎年4月19日) |
この「饅頭発祥の地」という歴史は、後述する千代乃舎竹村の「奈良饅頭」にも受け継がれています。
「本家菊屋」— 天正13年創業、秀吉公が名付けた御城之口餅

本家菊屋は、天正13年(1585年)に大和郡山市で創業した老舗です。豊臣秀吉の弟・秀長が郡山城に入城する際に、初代・菊屋治兵衛が同行して大和の地に入ったのが始まりとされています。現在の店主は26代目です。
代表銘菓の「御城之口餅」は、粒餡を餅で包みきな粉をまぶした一口サイズの餅菓子で、秀吉をもてなす茶会で献上され、秀吉自身が「鶯餅」と命名したという由来を持ちます。店名が示す「御城之口餅」という通称は、郡山城の大門を出た町人街の1軒目に店があったことから付けられました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | 本家菊屋 |
| 創業 | 天正13年(1585年) |
| 所在地 | 奈良県大和郡山市柳町 |
| 代表銘菓 | 御城之口餅(鶯餅) |
豊臣秀長の郡山城入城とともに大和の地に根を張り、秀吉自らが名付けた逸話を持つ銘菓を400年以上守り続けている点が、本家菊屋の特徴です。
「千代乃舎竹村」— 元禄14年創業、奈良饅頭で饅頭発祥の地を今に伝える

千代乃舎竹村は、元禄14年(1701年)に竹村源兵衛が「山城屋」として奈良市で創業した老舗です。明治期に現在の「千代乃舎竹村」へ改称しました。創業から320年以上、奈良市内で最も歴史のある和菓子店のひとつとされています。
代表商品の「奈良饅頭」は、白あんと黒糖入りの黒あんの2種類があり、前述した林浄因にはじまる「饅頭発祥の地」奈良の歴史を今に伝える商品として親しまれています。もう一つの名物「青丹よし」は、奈良の枕詞を冠した和三盆使用の干菓子です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | 千代乃舎竹村 |
| 創業 | 元禄14年(1701年) |
| 所在地 | 奈良県奈良市東向南町 |
| 代表銘菓 | 奈良饅頭、青丹よし |
江戸中期の創業から320年以上、「饅頭発祥の地」奈良の歴史を奈良饅頭という形で今に伝え続けている点が、千代乃舎竹村の特徴です。
「萬々堂通則」— 江戸後期創業、春日大社の神饌を受け継ぐぶと饅頭

萬々堂通則は、江戸時代後期(約200年前)に創業し、現在は5代目が営む老舗です。奈良市橋本町の「奈良もちいどのセンター街(餅飯殿商店街)」入口に店を構え、現在の場所には昭和32年に移転しました。
代表銘菓の「ぶと饅頭」は、約1300年前の飛鳥・奈良時代に中国から伝わった唐菓子「餢飳(ぶと)」がルーツです。春日大社に神饌(神様へのお供え物)として伝わってきたこの菓子を、萬々堂通則が春日大社の許可を得て、小麦粉の生地でこし餡を包み油で揚げた現代風の菓子として復活させました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | 萬々堂通則 |
| 創業 | 江戸時代後期(約200年前) |
| 所在地 | 奈良県奈良市橋本町 |
| 代表銘菓 | ぶと饅頭 |
1300年前の唐菓子を春日大社の許可を得て現代に復活させ、江戸後期の創業から5代にわたり受け継いでいる点が、萬々堂通則の特徴です。
奈良の銘菓はどこで買える? 選び方のポイント
| シーン | おすすめの店 | 選び方のポイント |
|---|---|---|
| 大和郡山で戦国時代からの由緒ある菓子を味わいたい | 本家菊屋(御城之口餅) | 天正13年創業、秀吉公が命名した逸話を持つ銘菓 |
| 「饅頭発祥の地」奈良の歴史を感じる菓子を選びたい | 千代乃舎竹村(奈良饅頭・青丹よし) | 元禄14年創業、奈良市内最古級の老舗 |
| 春日大社ゆかりの珍しい菓子をお土産にしたい | 萬々堂通則(ぶと饅頭) | 江戸後期創業、1300年前の唐菓子を今に伝える |
いずれも大和郡山市・奈良市という奈良県内の異なる土地で、戦国時代の逸話、饅頭発祥の歴史、春日大社の神饌文化という異なる背景を持つ銘菓を守っています。戦国武将ゆかりの菓子を味わうなら本家菊屋、饅頭発祥の地の歴史を感じるなら千代乃舎竹村、神社の神饌文化に触れるなら萬々堂通則と、目的に応じて選んでみてください。和菓子選びに迷ったときは和菓子の選び方ガイドもあわせて参考にしてください。
編集部メモ: 統計データだけを見ると、奈良県の1事業所あたり出荷額は全国平均の約0.57倍で、これまで紹介した鳥取県(1.25倍)・岩手県(0.60倍)よりも低い水準でした。ただ実際に老舗の歴史を調べてみると、奈良は単に「和生菓子の産出額が少ない県」ではなく、日本の饅頭文化そのものが生まれた土地だということがわかりました。室町時代に中国から渡来した林浄因が創作した饅頭が、670年以上経った今も千代乃舎竹村の「奈良饅頭」という形で販売され続けている点、また奈良時代の唐菓子「餢飳」が萬々堂通則の「ぶと饅頭」として現代に受け継がれている点は、統計上の出荷額の規模とは別の軸で奈良の和菓子文化の厚みを示していると感じました。
奈良の和菓子に関するよくある質問
Q1: 奈良はなぜ「饅頭発祥の地」と呼ばれるのですか?
貞和5年(1349年)、中国から来日した林浄因が、奈良・漢國神社の近くに住み、肉の代わりに小豆餡を詰めた饅頭(薯蕷饅頭)を創作したことに由来します。日本で最初の饅頭とされ、林浄因は漢國神社境内の林神社に「菓祖神」として祀られています。
Q2: 奈良を代表する和菓子は何ですか?
本家菊屋の「御城之口餅」、千代乃舎竹村の「奈良饅頭」「青丹よし」、萬々堂通則の「ぶと饅頭」などが挙げられます。
Q3: 「ぶと饅頭」とはどんな菓子ですか?
奈良市の萬々堂通則が作る銘菓です。約1300年前に中国から伝わった唐菓子「餢飳(ぶと)」がルーツで、春日大社に神饌として伝わってきたものを、春日大社の許可を得て小麦粉の生地でこし餡を包み油で揚げた現代風の菓子として復活させました。
Q4: 本家菊屋はどんな歴史を持つ店ですか?
天正13年(1585年)、豊臣秀長の郡山城入城に同行した初代・菊屋治兵衛が大和郡山市で創業しました。代表銘菓「御城之口餅」は、秀吉をもてなす茶会で献上され、秀吉自身が「鶯餅」と命名したという逸話を持ちます。現在の店主は26代目です。
Q5: 奈良県は和菓子の生産が盛んなのですか?
経済産業省の経済構造実態調査(2022年)によると、奈良県の和生菓子出荷額は3,288百万円で全国33位、1事業所あたりの出荷額は全国平均の約0.57倍です。これまで紹介した鳥取県(1.25倍)・岩手県(0.60倍)よりも低い水準です。
まとめ: 奈良の和菓子は、饅頭発祥の歴史を今に伝える老舗が今も続く
- 奈良県の和生菓子出荷額は3,288百万円(22事業所)で全国33位。1事業所あたりの出荷額は全国平均の約0.57倍です(経済構造実態調査2022年)。
- 奈良は、室町時代に林浄因が饅頭を創作した「饅頭発祥の地」として知られ、林神社では毎年4月19日に「饅頭まつり」が行われています。
- 本家菊屋(天正13年創業)は、秀吉公が命名した「御城之口餅」を大和郡山市で守り続けています。
- 千代乃舎竹村(元禄14年創業)は、饅頭発祥の地の歴史を伝える「奈良饅頭」と和三盆の干菓子「青丹よし」を作り続けています。
- 萬々堂通則(江戸後期創業)は、春日大社の神饌「餢飳」を受け継ぐ「ぶと饅頭」を奈良市で作り続けています。
奈良の和菓子は、産業規模としては全国平均を下回る一方、日本の饅頭文化そのものが生まれた土地として、戦国時代の逸話・饅頭発祥の歴史・神社の神饌文化という独自の背景を持つ老舗が今も営業を続けているのが特徴です。戦国武将ゆかりの菓子を味わうなら本家菊屋、饅頭発祥の地の歴史を感じるなら千代乃舎竹村、神社の神饌文化に触れるなら萬々堂通則と、目的に応じて選んでみてください。
この記事は和菓子道編集部が執筆しました。和菓子道は和菓子職人のキャリアと和菓子文化に特化した専門メディアです。
詳しくは編集部についてをご覧ください。
参考情報
- 経済産業省・総務省「経済構造実態調査」2022年(e-Stat 政府統計の総合窓口、https://www.e-stat.go.jp/)
- 本家菊屋公式サイト「ショップガイド」(https://www.kikuya.co.jp/hpgen/HPB/shop/shopguide.html)
- 奈良市観光協会公式サイト「饅頭まつり/林神社(漢國神社内)」(https://narashikanko.or.jp/event/detail_10247.html)
- CoLocal「奈良県奈良市はまんじゅう発祥の地。林浄因から始まる和菓子の歴史を紐とく」(https://colocal.jp/nara/20261014_177484.html)
- 千代乃舎竹村公式サイト(https://chiyonoya-takemura.jp/)
- 老舗map「萬々堂通則の『ぶと饅頭』」(https://shinise.tv/manmando/)


コメント